VIVA LA ROCK 2019

5.5 SUN 19:30-20:30 STAR STAGE
クリープハイプ

スマホの画面からは伝わらない、
フェスとバンドと、そこにいたみんなの幸福な物語

とても感慨深いライヴだった。

この日のSTAR STAGEのヘッドライナーをつとめたのは、5回目の出演にして初のヘッドライナーとなるクリープハイプ。このメンバーになって10年、メジャーデビューからは7年。ビバラだけでなく数々のフェスに出演してきた彼らだが、フェスのトリをやるのも、これが初めてだ。

そして、彼らが見せたのは、とても誠実に、まっすぐに、バンドの歌と演奏を届けるステージ。風格と貫禄を示すパフォーマンスだった。

定刻を迎えると、SEも何もなく、真っ暗なステージに4人が登場する。まず披露したのはメロウな“5%”。小泉拓(Dr)が叩く優しい16ビート、そして長谷川カオナシ(B)が奏でるシンセと小川幸慈(G)の控えめなギターカッティングに乗せて尾崎世界観(Vo&G)が歌う。

「優しい気持ちになって、しっとりと始めてみました。その方が痛くないと思ったんですけど、濡れました、みなさん?」

そう尾崎が告げて、続いては“鬼”をプレイ。さらには彼のメロディメーカーとストーリーテラーとしての才能を示す“おばけでいいからはやくきて”、さらには「大炎上の歌を歌います」と長谷川が告げて彼がヴォーカルを担当する“火まつり”と続けていく。スタジアムモードのさいたまスーパーアリーナには、後ろのスタンドまで人が埋まっている。アグレッシヴに熱く盛り上がるというよりも、彼らの音楽に込められた情熱をしっかりと受け取ろうとする思いに満ちた、とてもあたたかな空気が漂っている。

「遅くまで残ってくれて、本当にありがとう」という感謝と共に、尾崎は、初めてヘッドライナーをつとめた思いを風呂に喩えて「いろんな人が入った後にドロドロになった風呂に入るのはイヤで気乗りしなかったんだけど、実際に立ってみたらものすごくキレイな景色でした。ありがとう」と語る。

そして「悪態ついてばっかりだけど、そんな気持ちも全部……」と言い、<夏のせい>と歌う“ラブホテル”へ。尾崎は「メンヘラ、メンヘラ言われるだろ? メンヘラの力、みせてみろ」とオーディエンスに笑顔を見せる。「もうこれで舐められないと思うよ、大丈夫だと思うよ」とも言っていたが、彼らを追ってきたファンは誰よりも知ってるだろう。「メンヘラ」なんて4文字で片づけられない、やるせなさやどうしようもなさ、綺麗ごとじゃ片づけられない愛や欲望を歌ってきたバンドがクリープハイプであるということを。

ライヴ後半は、バンドの辿ってきた道を改めて辿っていくようなベストヒット的なセットだ。フロアを埋めるお客さんが飛び跳ねた“イト”。原曲からはぐっとテンポを落としたアレンジで重厚さを増した“憂、燦々”。そして尾崎にとって、バンドにとって転機となった時期の“二十九、三十”。

正直、これまでバンドの歩んできた道は、決して順風満帆なものではなかった。思うようにいかない日々も、喉の不調を抱えた時期もあった。だからこそ、彼らを追ってきたファンにとっても、今日のステージは特別な思いが湧き上がるものがあっただろう。

「やりますか、セックスの歌」と告げた“HE IS MINE”では、「これが風呂なら、思う存分、汚していいでしょう?」とニヤリと笑う尾崎に応え、オーディエンスは力いっぱい「セックスしよう!」と叫び、大歓声をあげる。さらには、尾崎が目を剥いて歌った“社会の窓”から“社会の窓と同じ構成”へと続ける。

「さいたま、大好きです。楽しいな、本当に」。尾崎は微笑んでそう語った。

そして、「ビバラはずっと自分たちのホームだと思ってるんで、何かあったときに、帰ってきたいと思ってます。ここに栞をはさんでおきます」と、最後に“栞”を披露した。最新作『泣きたくなるほど嬉しい日々に』に収録された、エヴァーグリーンなポップソングとしての彼らの魅力を示す、一番新しい代表曲だ。祝福のムードがあふれるなか、4人はステージを降りた。

「ロックフェスというのは、パソコンとかスマホの画面上でライヴレポートを見ても、なんにも伝わらないと思います。そんな簡単なあらすじにまとめられてたまるかって思って、やってます」

ライヴ中、尾崎はそんなことも言っていた。とても彼らしい言い方だな、と思った。ここに書いてあるのは、あくまで「ライヴレポート」。ロックフェスの物語は、実際にその場で体感した一人ひとりの人たちが語り継ぐことだ。

テキスト=柴 那典

セットリスト

1. 5%
2. 鬼
3. おばけでいいからはやくきて
4. 火まつり
5. ラブホテル
6. イト
7. 憂、燦々
8. 二十九、三十
9. HE IS MINE
10. 社会の窓
11. 社会の窓と同じ構成
12. 栞

撮影=釘野孝宏

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