VIVA LA ROCK 2019

5.6 MON 14:40-15:15 CAVE STAGE
眩暈SIREN

暗闇を貫く痛切な叫び
その静寂と轟音のコントラストに震える

自分を押し潰そうとするノイズを殺し、静寂を手に入れるための爆音。そんなライヴだった。

「私は、自分が嫌いです」
「僕は、自分が嫌いです」
そんな声が点々と重なって、暗転したCAVE STAGEに不穏な波紋を広げていくSEが流れる。真っ暗闇に蠢くおびただしい数の「自己嫌悪」を背に登場した5人だが、それぞれが顔に影を落としてその表情は一切見えない。その真ん中、黒いフードにすっぽりと顔を隠した京寺(Vo)が「眩暈SIREN、始めます」と手短に挨拶をしてからプレイされたのは、“偽物の宴”だ。あらゆる場所で楽しさと多幸感が共有されていく「フェス」という場所でこそ、楽しさや幸せから弾き出された者の心の内を吐き出す1曲に意志を込めたのだろうか。空間全体にぽつぽつと墨汁を落としていく単音のギターフレーズが次第に音の壁となって立ち上がっていく様は、京寺のしなやかな歌声を守る防護シェルターのように感じられる。

「福岡から来ました、眩暈SIRENと言います。2年ぶりのVIVA LA ROCK、嬉しいです。ここ(ステージ袖)に送風機があって少し冷たいんですけど(笑)、それを吹き飛ばすくらい熱くなれたらいいなと思っています」

そんなオオサワ レイ(G)の言葉とは裏腹に、眩暈SIRENの歌は、心の冷たく暗い部分だけを抉って白日に晒していくようなものだ。“ジェンガ”では、静と動、歌と叫びのコントラストがくっきりとした展開の中で、いよいよ感情の堤防が決壊したように京寺が「泣き声」
を響かせる。生きる希望と報われる瞬間を諦めながら、「自分と呼べるものは残っているか?」と自身にナイフを突きつけるパフォーマンスがさらに痛切なものへと変貌していく様は、激情的であり劇場的でもある。

「ここまで聴いてくださった方、ありがとうございます。自分はいい人間じゃない。自分はいい人間なんかじゃない。傷つけたくないのは、自分が傷つきたくないからだ。優しくするのは、自分が優しくされたいからだ」

そんな言葉をあくまで静かに語る京寺は、フロアでも人の顔でもなく空をじっと睨んでいるだけ。自分の一挙手一投足を疑い、純粋に優しくなれず汚れてしまってもなお自分は何故生きるのか?と問い続ける姿を晒し、過去を徹底的に否定することで微かな未来を探そうとする歌。いわゆる「和メロ」のしなやかさを軸に据えながら、それをへし折るような叫びを突き刺していく楽曲も、自分が生まれたこの場所、生きてきた道のり、そのすべてを否定しぶち壊そうとする想いから生まれているのだろう。

「失ってばかりの人生だった。これからも失っていくだろう」
徹頭徹尾、真っ暗闇の中で蜘蛛の糸を掴もうともがく様だけを見せ続けるステージだった。ラウドな音楽性とフィジカルな高揚をもたらすバンドが多い今日、この「静かな激しさ」がもたらした一滴の静寂はあまりに鮮烈で出色だった。

テキスト=矢島大地

セットリスト

1. 偽物の宴
2. 空気より透明な
3. ジェンガ
4. 夕立ち
5. 故に枯れる
6. 思い出は笑わない

撮影=小見山 峻

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