
いよいよ5月1日がやってきた。2年越し、ついに、ついに、ついに! フェスが、ビバラが帰ってきたのだ。もうその事実だけで心が震えるし、こうして書いているだけで泣きそうだが、泣いてばかりもいられない。コロナ禍でいろいろなルールは決められているし、以前とは違う部分もたくさんあるが、それでもさいたまスーパーアリーナには最高の音楽が鳴り響き、熱いエモーションのキャッチボールが繰り広げられ、力強い希望のメッセージが放たれ……つまりこれぞフェス!な風景が次々と生み出されていたからだ。その初日の模様をレポートする。
開演に先立って、ビバラの公式ゆるキャラ「さいたまん」と、さいたまスーパーアリーナの公式キャラクター「たまーりん」を引き連れてステージに登場したプロデューサー・鹿野淳が感染防止対策やルールを丁寧に説明する。「みんながビバラに来たことを誇りに思えるような1日にしたいです。ものすごい楽しい1日を過ごしてください!」という言葉に大きな拍手が起きる。
そして5日間の先陣を切るトップバッターとしてULTRA STAGEに立ったのは、こいつらがいなければフェスは始まらない、そう、KEYTALKだ。春らしく“桜花爛漫”でキックオフすると、アリーナ一面に挙げた手のひらの花が咲く。「どんどん身体揺らしていこうぜ!」という巨匠こと寺中友将の言葉から“MATSURI BAYASHI”でさらにテンションを高めると、その後もライヴ映えする多彩な楽曲を連打。トップバッターだろうとトリだろうと確実に空気を掴み巻き込み変えていくのがこのバンドだが、若干の緊張感も漂っていた初日のさいたまスーパーアリーナを一瞬で祝祭空間に塗り替えてみせたのはさすがとしか言いようがなかった。
KEYTALKの最後の曲が終わった瞬間にCAVE STAGEへ向かうと、このステージのトップバッター、インナージャーニーがまさに始まったところ。“クリームソーダ”の甘酸っぱくて懐かしいメロディが軽やかに広がる。素朴で、どこかアンバランスで(メンバーの見た目も名前の表記もバラバラなのがいい)、だからこそ愛おしい、そんなインナージャーニーの魅力がぐいぐいと伝わってくる、そんなライヴだ。まじで、遺伝子レベルでノスタルジーを刺激するいい曲揃い。初めて観て掴まれた人も多かったんじゃないかと思う。
続いてGREAT STAGEの一番手はNovelbright。1曲目“Sunny drop”から竹中雄大の伸びやかなヴォーカルがアリーナの巨大な空間に響き渡る。続けて“Count on me”。雄大の世界クラスの特技である口笛も決まる。すっと耳に入って記憶に定着していくようなメロディといい、テクニカルな部分とエモーショナルな部分を絶妙なバランスで配合したアレンジといい、改めてデカい場所が似合うバンドだ。全身で心情を表現するように歌われた“ツキミソウ”のようなバラードから“拝啓、親愛なる君へ”のようなアッパーチューンまで、メジャーデビュー1年目とは思えない幅の広さを見せつける堂々としたパフォーマンスはこれからの彼らの未来に期待を寄せるに充分だった。
さて、帰ってきたといえばビバラだけではない。このバンドもヴォーカリストの体調不良による休養から先日復活したばかりだ。ライヴ活動再開後初のフェス出演となったKANA-BOON。谷口鮪の「ただいま!」の一言を皮切りに、いきなり繰り出したのは“ないものねだり”、続けて“シルエット”。これこれ、これだよ!というKANA-BOON節を披露して一気にギアを入れてみせた。「これからまた先、元通りになったときに、今日という日があったことをお互いに忘れないでいたいなと思います。今日が新しいスタートラインになるので」という谷口の言葉から積もり積もった思いのすべてをぶつけるようにして鳴らされたラストチューン“まっさら”が、ここからまた始まっていくフェスとKANA-BOONの日々を祝福しているように鳴り響いた。
たくさんの人が集結したCAVE STAGEに登場したのはHakubiだ。片桐の凜とした歌声が、最初は静かに、そしてバンドのサウンドの力を得てだんだんと力強く広がっていく。「VIVA LA ROCK 2021! 忘れられない1日にしよう!」という宣言から繰り出された“辿る”には、フロアから次々と拳が上がる。リリースされたばかりの新曲“道化師にはなれない”では細かく刻まれるハイハットと畳みかけられるような言葉が触れたら切れるような鋭さを放ち、ノイジーなギターソロが心を掻き立てる。「絶対に、未来を、夢を渡したいと思って今日は来ました。絶対、あっちの大きいステージ行ってやるからな!」。片桐のそんな強い意思を体現するような“mirror”の熱いパフォーマンスが強烈に印象に残った。
Hakubiの余韻に後ろ髪を引かれつつGREAT STAGEに向かうと、Nothing’s Carved In Stoneが爆裂していた。ひなっちこと日向秀和のスラップベースと生形真一のテクニカルなギターフレーズが聞こえてきて思わず足を早める。ノースリーブのTシャツを着た村松拓が人差し指を高々と掲げている。たまアリの屋根を突き破りそうなスケール感で広がるメロディは“Like a Shooting Star”だ。そしてハンドマイクで歌う姿も新鮮な“Wonderer”へ。ずしんずしんと響く重低音とダンスビート、打ち鳴らされるハンドクラップ。踊れる要素は満載だがそんじょそこらの踊れるロックとは一線を画す、骨太で歯応えのある感じは彼らならではだ。キャリアを重ねてきたからこそ生み出させるデカさと強さが今のナッシングスにはある。それを証明するようなライヴだった。
1曲目“バッドパラドックス”のアッパーな4つ打ちビートでいきなりの盛り上がりを生み出してみせたBLUE ENCOUNTは、さらに“VOLCANO DANCE”を畳み掛けてULTRA STAGEを完全にロック。先日横浜アリーナでのワンマンライヴを終えたばかりとあってバンドの仕上がりは上々、ぎゅっと密度の高いアンサンブルで場内の熱を高めていく。筆者の大好物である江口雄也のギターも絶好調、辻村勇太のベースも高村佳秀のドラムも一音一音に気合が入っている。「今日ここにあるのは、あなたと僕達のはじまりです」という田邊駿一の言葉から演奏されたラスト曲“はじまり”の最後に彼が絶叫した「ありがとうございました!」にすべての思いがこもっていた。
続いてはCAVE STAGE、神はサイコロを振らない。「今日ここに集まったことを後悔させません! 最高に楽しい時間にします!」そんな柳田周作の宣言どおり、一瞬たりとも目を離せないテンポでライヴは進んでいく。バンドとしての地力の高さを見せつける“パーフェクト・ルーキーズ”から力強いグルーヴとビートがフロア中からの手拍子を巻き起こした“揺らめいて候”への怒涛の展開、そして一転して切ないピアノの音色とともに切なく響いた“夜永唄”。柳田のビブラートとブレスが、楽曲の情景をますます鮮明に描き出していく。柳田の歌の表現力もさることながら、それを支えるバンドのプレイもすばらしい。大胆さも繊細さも自由自在、どう考えても神サイのポテンシャルはこのCAVE STAGEを大きくはみ出しているように思えた。
1曲目に“君と夏フェス”を投下したSHISHAMO。いきなりトチるご愛嬌もありつつ、それも含めて「ホーム」としてのリラックス感も漂う、いいライヴだった。アイスのCMでもおなじみの“君の⽬も⿐も⼝も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!”では宮崎朝子が弾くキーボードが楽曲に新鮮で軽やかに色を付けていく。初年度に出演したときにはまだ10代だった彼女たち。まさにビバラとともに歩んできたバンドだけに、こうして2年ぶりに開催されたことへの感慨もひとしおだろう。「あ!」とか「ね!」とか声を上げて「反響(=会場に響いて跳ね返ってくる自分の声の響き)がすごいね!」などとわいわい話している感じはどこまでも等身大だが、ステージから鳴る音楽は確実にその成長と進歩を物語っている。スクリーンに手書きの歌詞を映し出した“明日も”と“明日はない”、こんな時代だからこそ、今を全力で生きることを伝えるような2曲を最後に続けたところに、彼女たちからのメッセージがあった。
THE ORAL CIGARETTES、山中拓也はこの日のULTRA STAGEに「ONAKAMA」の盟友バンドが並んでいることに触れ「2番手なのが気に食わん(笑)。このあとのフォーリミが声出なくなるくらいいいライヴしようと思います!」と不敵な宣言。1曲目“Dream In Drive”から“狂乱 Hey Kids!!”への流れで強烈な「先制攻撃」をかましてみせる。ライヴハウスで叩き上げてきたバンドだからこそ、この状況には思うところもあるはずだが、それを肯定的に受け入れてエネルギーに変えている感じがなんとも頼もしい。ひさしぶりのフェスという環境がそうさせたのか、今の条件の中でベストを尽くそうという姿勢の表れか、この日の山中はとにかく最初から最後まで観客を煽り続けた。それに応えるお客さんも全力。ステージとフロアの間で、言葉はなくともいいグルーヴが生まれていた。
続いてCAVE STAGE。今まさに勢いに乗るバンド、ハンブレッダーズは名曲“銀河高速”からスタートだ。「今日はみんなマスクしてるけど、そのぶん俺が歌うんで」という言葉から始まった“弱者の為の騒音を”、切ない歌詞をムツムロが万感込めて歌い上げたバラード“ファイナルボーイフレンド”。歌を中心にサポートメンバーのうきを含め4つの音が塊のように集まって、そのままゴロゴロと砂利道を転がっていく、ハンブレッダーズの音楽とはそういうものだ。だから傷も付いてるし表面は凸凹。でも真ん中にある歌と言葉がどこまでも強靭で純粋だから、決して壊れたりはしない。「コロナ禍でも音楽が作れる魔法っていうのはあるんだよ」。信念と実感の入り混じったそんな言葉にもにじむ、バンドミュージックへの絶対的信頼が眩しいライヴだった。
“祝祭”から始まったGREAT STAGE・sumikaのライヴは“Lovers”でいきなりクライマックスのような美しい風景を描き出す。洒脱なダンスチューン“Flower”を歌いながら片岡健太は「楽しいー!」と叫んだり、お立ち台に登って踊ったり、他ならぬ彼ら自身がこの時間を楽しみまくっていることが端端から伝わってきた。「なんか、素直に会いたかったんだなって実感しました。燃え尽きる覚悟で歌います、演奏します」。1曲目の時点で泣きそうになっていたという片岡の実感がこもった言葉にあたたかな拍手が送られる。“ふっかつのじゅもん”を歌い終えた片岡の見せたガッツポーズ、覚悟と決意をもって思いっきり背中を押す、そんなバンドの基本姿勢を証明するような最後の“Lamp”。音楽そのものの底力を教えてくれるような、sumikaの全力投球だった。
さあ、いよいよ各ステージ残り1アクトを残すのみ。ULTRA STAGE本日ラストは04 Limited Sazabysだ。“fiction”、“monolith”、“Alien”と鉄板のライヴアンセムを連発してアリーナの温度は急上昇、真っ赤なライトが輝いた“Utopia”では一面のジャンプがますます高揚に拍車をかけていく。こうしてフェスが開催されたことに感謝しつつ、2015年に初出演した際のこと(異例の2日間連続出演だった)を引き合いに「何かをやるときは賛否両論が起きるもの。その選択を正解にしたい」とGEN。自らもフェスのオーガナイザーであり生粋のライヴハウスバンドである彼らにとってこの1年は苦しいことや難しいことの連続だったはずだが、音楽を信じて進み続けてきた結果、このステージにたどり着いた。“Squall”が生み出した熱くて感動的な光景は、文字通り彼らの選んできた道が正解であることを証明していた。
CAVE STAGEのファイナルアクトはオレンジスパイニクラブ。痛快だった。とにかくゴール目掛けてまっしぐら、ドッグレースみたいな勢いで楽器をかき鳴らし、マイクに向かってがなり立てる。で、それを届くまでやる。言葉は悪いけど、スズキユウスケ率いるこのバンド、生粋のロックバカ集団、である。“スリーカウント”の瞬きしている間に置いていかれそうなスピード感、“みょーじ”の脱臼しそうなテンポチェンジ、“駅、南口にて”のどうしようもなく情けない心象風景。ギターのアルペジオから始まった“キンモクセイ”には待ってましたとばかりにフロアから手が上がったが、音源とはまったく違う印象に驚いた人もいたのではないかと思う。
さて、そんなオレンジスパイニクラブのCAVE STGAEからGREAT STAGEに移動すると、ヘッドライナーのKing Gnuはちょうど1曲目の“飛行艇”を終えて“千両役者”に突入したところだった。ステージを覆う大量のスモーク、極彩色のライティング、まずはその見た目に圧倒される。そして鳴っている音。単にローが強いだけじゃない、すべての音域をギリギリまで厚くしたような、パンチのある音が鳴っている。こうしてフェスで並ぶと、改めてこのバンドの異質さと先進性が浮き彫りになるようだ。勢喜遊のドラムに合わせて「みなさん、楽しいねえ! 今日まで我慢して、やっと、楽しめるんじゃないか?」と井口理が言っている。そうして始まったのは“Vinyl”。井口がハンドマイクで身体を揺らしながら歌えば、常田大希は強烈なギターソロを決めてみせる。“Sorrows”では井口が手拍子を誘い、一気にアリーナの一体感は高まっていった。
床がビリビリと震えるローとともにの美しい井口のファルセットが響き渡った“白日”を経て、常田が拡声器で歌いながらステージを練り歩きオーディエンスを挑発する“Slumberland”(常田は新井和輝の口に拡声器無理やり突っ込んだりしてる)へ。常田の弾くピアノに合わせて井口が歌い上げる“三文小説”では、まるで雲海のように地を這うスモークがどこか神秘的な雰囲気を生み出していく。代表曲を次々と繰り出していくセットの最後(というかじつはこれがアンコール扱いだったらしい)は井口と常田が向かい合ってスタートした“Teenager Forever”。フロアの興奮は最高潮に達し、「踊れー!」と叫んだ井口が自ら率先してむちゃくちゃなダンスを繰り広げてゴール。クールなのにエモーショナルで、エッジィなのに同じくらいキャッチーな、King Gnuの魅力の一端がしっかりと刻まれた強烈なステージだった。
テキスト=小川智宏
撮影=小杉歩