VIVA LA ROCK 2021

VIVA LA ROCK 2021、5日間におよぶフェスの最終日。いつ終わるかも分からない、どこを責めたら良いかもわからない、そんな日常にフェスがある幸福。以前と全く同じとは言えないけど、昨年は中止となったさいたまスーパーアリーナでのVIVA LA ROCKが、開催されるということを心の支えにしていた人も多かったと思う。そんな中、4都府県に再度の緊急事態宣言、開催地である埼玉県にもまん延防止等重点措置が適用。大多数の人が、もしかしたらフェス自体がなくなってしまうかも、という不安がよぎったと思うが、VIVA LA ROCKは開催という判断をした。そこにはもちろん、徹底した感染防止対策を実施するという大前提があった上でのことだが、それでも批判する人はいて、その意見を受け止める覚悟があって、矢面に立って開催の判断をする——それは音楽と音楽を愛する者への敬意と信頼があってこそ成り立った判断だと思う。そんなフェスに来られたことをまず誇りに思った。

トップバッターの前に、ビバラのプロデューサー・鹿野淳がビバラの公式ゆるキャラ「さいたまん」と、さいたまスーパーアリーナの公式キャラクター「たまーりん」を引き連れてステージに登場し、感染防止対策のためのルールを丁寧に、しっかりと心の籠った言葉で伝える。外は晴れ模様というわけには行かなかったが、「最高のロックで温めようと思います」「1日1日が勝負だと思ってたので、最終日まで辿り着けた事が嬉しい。最後までバトンを繋げたい」という言葉に、拍手で応えるお客さんが頼もしい。

この日のトップバッターはULTRA STAGEのハルカミライ。M-1などのお笑い賞レースが盛り上がる条件、それはトップバッターがきちんと爪痕を残すこと、自分たちを存分に出し切ることだと思ってるんだけど、それで言うとこの日のハルカミライは満点中の満点を叩き出してくれた。橋本学の咆哮からスタートしたライヴ。「午前中からこんな味濃いバンドに集まってくれてありがとな」と笑っていたけど、轟音、コーラス、そして歌、全てが前のめりな彼らが最終日のトップバッターで本当に良かった。“僕らは街を光らせた”の歌詞が特に心を打った。

続いてCAVE STAGE、Panorama Panama Townを見るために駆けつけた観衆。立ち位置指定に従いディスタンスをしっかりと取りながら待っているオーディエンスに対し、初めて彼らを観る人にも届く“SHINKAICHI”をまず聴かせ、グッと自分たちの世界に引き込む。揺るがない自信の中から、見え隠れする色気と可愛げ。バンドアンサンブルが心地よい。「いい趣味してるね」というMCから繰り出される同名曲“いい趣味してるね”の流れは惚れ惚れするほど見事だった。

そしてGREAT STAGEの1組目、teto。こちらは熱いメッセージを直接的な言葉で伝えるということではなく、背中で示すカッコ良さがあった。「いろんな人がいる中で時には敵を作ったり、誰かを傷つけてしまうかもしれない。だけど、そういうものこそ信用できる」というMCは、tetoの生みだす楽曲のテーマのように感じた。<初めて手にした岡崎京子のpinkを理由にするには十分過ぎた>という歌詞で、初めてtetoのライヴを観たサブカル好きの心を鷲掴みにするのは十分過ぎるだろう“高層ビルと人工衛星”。自分たちの好きなロックンロールはこれだ、と歌声、演奏、全てで表現していて素晴らしいアクト。

ULTRA STAGEの2組目はDizzy Sunfist。「誰になんと言われようと、今この瞬間がうちらの生きる希望」というあやぺたの言葉通り、爆音で楽曲を演奏する3人の表情が素敵。熱気溢れるライヴに呼応するように、声を出せない分、手を挙げて応える観客。このライヴに限らず、1日を通して、マスクを外したり、大きな声で騒いだりする人が一人もいなかったのは本当に印象的だった。「不安もコロナも吹き飛ばしてやるから」とカッコいいことを言ったと思ったら「ヤーマン!」といきなり叫ぶ、ちょっとかかり気味のあやぺた、でもそれがDizzy Sunfistの3人の良さであり、その良さが存分に発揮されたステージだった。

CAVE STAGE、2組目はセックスマシーン!!の登場。声を出せない観客に向かって「俺たちもパーカションで行くぞ」と太鼓を片手に登場し、MCでは 「今回のビバラロック、5日間で最大のダークホース」という言葉で爆笑をかっさらい、“サルでもわかるラブソング”、“頭の良くなるラブソング”の異色ラブソング2連発で完全に観客の心を鷲掴みにしていた。

セクマシのライヴの良さに後ろ髪引かれながら、続いてGREAT STAGE2組目の打首獄門同好会へ。昨年リリースされたこの曲で完全に打首獄門同好会のファンになった“新型コロナウイルスが憎い”。ヴィジョンによる視覚効果をふんだんに使ったライヴは、初見にも盛り上がりやすい構造で、改めて彼らの曲のキャッチーさを思い知らされた。個人的に最新作に収録されている“カンガルーはどこに行ったのか”は子供にも聴かせられる敷居の低い歌詞でありながら、めちゃくちゃ哲学的で素晴らしいと思っていたので、生で聴けて良かった。 “島国DNA”の時にヴィジョンに映し出された「いわしのつみれ」にみんなが拳を挙げている瞬間は、本当に異様で幸福な光景で素敵だった。

ULTRA STAGEの3組目、キュウソネコカミ。なんか胸騒ぎがして時間より早めに行ったら「本気のリハやります!」とそこから1番だけのものも含めて3曲ほどやってくれた。本当キュウソのこういうところが愛らしい。本編のライヴもすこぶる良くて、キュウソっぽいシニカルな曲とシリアスな面が垣間見える“囚”みたいな曲の対比がとても良かった。「楽屋にメッセージカードがあって、鹿野さんが書いてるんだけど、『ステージから降りちゃダメだよ』って書いてあって。関西人にそのフリはアカン!!! でも、そういう時に降りないからこそ俺らはここにいる」って言葉は、まんまキュウソってバンドを表してるな、と納得してしまいました。飄々としているように見えて大きなものを背負っている彼らが僕は愛しい。

もしかしたらパブリック・ビューイング(今年はディスタンスの関係で特に収容人数が少ないCAVE STAGEは、規制がかかって入れない人々のために、場内にパブリック・ビューイングのスペースがあった)も含め、この日のCAVE STAGE1番人気だったんじゃないかと思うほどの盛況ぶりだったオメでたい頭でなにより。赤飯、ぽにきんぐだむ、ふたりのヴォーカルの上手さやオーディエンスの乗せ方が板についているのはもちろんだが、ここまで縦横無尽にステージを支配できるのも、それぞれの演奏力の高さもあってのもの。大塚愛“さくらんぼ”カバーの「さくらんヴァー!」というシャウト、ずっと忘れられないな。

続いて、GREAT STAGEの3組目、ヤバイTシャツ屋さん。「声出せない代わりに、手拍子、拍手、多めにお願いします」というこやまのMCの通り、“かわE”、“癒着ナイト”と手の皮が今日1日で厚くなりそうなキラーチューンの連打。この日出演するマキシマム ザ ホルモンを意識しての「ミニマム ザ タンです」というこやまのMCに対して、「パスタボールペンです」と返したありぼぼの頭の回転の速さに感嘆しながら「知らない人は知ってるフリして」という言葉や「コールアンドレスポンス無視してください」という言葉の後に“喜志駅周辺なんもない”のコールアンドレスポンスなしバージョンを披露するなど、規制の中でどうやって楽しむか、ということの見本のようなライヴを見せてくれた。“ハッピーウェディング前ソング”で終わりかと思ったら「あと3分でやります!」と“あつまれパーティーピーポー”を演奏。残り時間をカウントしながらオーディエンスを乗せまくるのは最高だったな。M-1で言うところの「持ち時間の使い方完璧」でした(M-1の例え2回目)。

ULTRA STAGEの4組目、HEY-SMITH。この並びでホーンセクションがいるバンドが1組いるのは本当に贅沢だな、と思った。最初は正直、ヘイスミみたいなバンドがディスタンスを保ったオーディエンスを目の前でやるのどうなんだろうな、と内心不安があったんだけど、猪狩の乗せ方が本当に上手で、みんなその場で距離を保ったままスカダンスをやっていて、その光景に心底感動した。「みんなで大声出して歌いたいところやけど、今日はいっそ聴き入ってみ、目を閉じて深く深呼吸して、頭の中で最高のイメージ作って」とみんなを促したあと、「なんか宗教みたいやな」と猪狩は笑って“Summer Breeze”を披露していたけど、宗教に勝るとも劣らない、想像力と信頼感をあわせ持っているのがヘイスミなんだなと実感。終盤のMCでは「メディアもたくさん来てるだろうからあえて言う」「医療従事者の皆さんは本当に素晴らしい」としっかり前置きした上で、フェスに対する偏向報道に対して話す猪狩。「これだけソーシャル・ディスタンスを取って、みんなはマスクもして、声も我慢して、これと満員電車、どっちが危険やねん」、「一番悲しいのはお前らがライブが吊るし上げられてるニュースを目にするであろうこと。俺はお前らと同じ気持ちだから! 心配すんなよ!」と熱く語っていた。これも、音楽を、ライブハウスを、愛するが故の叫びだろう。今この空間を奪わないでほしい、と言う強い気持ちが伝わってきた。

続いてCAVEステージのSPARK!!SOUND!!SHOW!!。ライブを観るのは何度目かになるが、いつ見ても妖艶で少し危険な匂いのするアクトを披露していて、他にない魅力を持ったバンドだなと感じる。「大宮の暴走族に捧げます」という煽りのあとの“黒天使”がめちゃくちゃバイオレンスでカッコ良かった。「包丁よりハサミよりカッターよりナイフよりドスよりキリよりカッコいい照明にしてください」と時間帯が少し被ってしまうマキシマム ザ ホルモンを意識したコメントもグッド(「俺も見たかったわー」と名残惜しそうな言葉も添えて)“かいじゅうのうた”も素晴らしかった。 スサシをそのまま観続けたい気持ちになったけど、全アクトを見るのが自分の役目!とGREAT STAGEに急ぐと、お馴染みのSPACE COMBINEの楽曲にのせてマキシマム ザ ホルモンが登場。この日のGREAT STAGEの打首獄門同好会、ヤバイTシャツ屋さん、マキシマム ザ ホルモンというタイムテーブルの並び、それぞれが前のアクトに負けないように、フェスの意図とガイドラインを組んで、趣向を凝らして、盛り上げるような流れになっているのが心憎い。ホルモンのライヴはマジでいつもハズレがないし、素人も玄人もとことん楽しめるけど、それだけで終わらないのが今日の4人。ホルモンの、特に“F”のような楽曲は、本当は声を出して盛り上がりたいけど、こんな状況下だから、出せない。マジで精神と時の部屋くらいしんどい観客の想いを汲んで、「普段自分たちのライブでもやらないけど」と観客にスマホの灯りをつけさせたりという演出を出すのが素晴らしい。「見た目めちゃくちゃの人がルール守ってるのが一番パンクだから」というナヲの言葉が改めて刺さる。「鹿野さんがバトンの話してたけど、そのバトンは今日が終わって終わりじゃないから。家に帰ってからもバトンは続いているから」というダイスケはんの実直な言葉も胸を打つ。「また来年、バトンを持って、ゴールデンウィークに鹿野ちゃんに会いに来ましょう」という言葉で、恒例の恋のおまじない「麺カタこってり!」を「鹿野、来年も、やろうぜ」という特別バージョンでやりつつ披露された“恋のスペルマ”、最高でした。

ULTRA STAGEのトリは、多分、今日のラインナップの中で、ここ1、2年で1番大きく状況が変わったであろうマカロニえんぴつ。ラウド勢が多いこの日のメンバーを意識してか、はっとりが「いささかアウェイを感じております(笑)」と言っていたが、いやいやとんでもない。彼らがそこまで音楽に熱心じゃないリスナーにも届く理由が良くわかった。ロックバンドとした堂々とした振る舞い、腹の底に響くボーカル。今日の出演者は実直にメッセージを届けるタイプと、皆まで言わず背中で表現するタイプ、ユーモアを交えて届けるタイプと様々だけど、彼らのように少しキザっぽく音楽への愛を語り体現するバンドはいなかったから、特にカッコよく感じた。<愛を知らずに魔法は使えない>ってめちゃくちゃいい歌詞だよなあ、と、“mother”を聴きながら思った。

CAVE STAGEのトリはバックドロップシンデレラ。観客とのシンクロ率は、この日の一番じゃないだろうか、と思えるくらいの熱気だった。めちゃくちゃリスナーに愛されてるな!ってすぐ分かるくらいの良いアクトと客席の空気。今日初めて観た人も、オーディエンスの彼らを見つめる姿に心奪われたんじゃないだろうか。もう今日のVIVA LA ROCKのために作られたとしか思えない“フェスだして(市長復活~さいたま市ヨリ与野市ヲ解放セヨ~)”が特に最高だったな、あと唐突に始まる1分間の黙祷が意味わからな過ぎて笑いました。楽しんで楽しんで、すべて終わったあと、「良い曲だったな」って思える凄く幸福なバンドだと再確認。

そして5日間の大トリ、SiM。いきなり“DiAMOND”でラストを観に来たオーディエンスのゲージは頂点に! 「今日はお前らは歌えないですけど、俺は今日も相変わらず、マイクを向けるよ。でも今日は我慢してくれ」というMAHの不器用ながら実直な言葉も、SiMの良さを表現している。“Blah Blah Blah”の後の「2010年代を代表する歌いたくなる曲ナンバーワン、これを聴いても歌わないで我慢していられるお前らを偉い人に見てもらいたいよ」という言葉に、37歳おっさんの心がキュンとなるのを感じた。VIVA LA ROCKは皆勤賞だというSiM。本来であれば昨年トリを務めるはずが開催断念、その上での今日を迎えたと明かすMAH。「安心してくれよ、格の違いってものを見せてやるよ」という言葉の後、“BASEBALL BAT”、“Devil In Your Heart”、“Here I am”とこっちの残った体力をすべて取りに来る楽曲を連打。SiMのメンバーもみんな楽しそうに、でもこっちの熱気に負けないように全力でぶつかって来てるのがわかる。「どうにもならないものを吹き飛ばしてくれるのが音楽であり、ライヴ」「敵をぶっ潰すのが強さじゃなくて、大切なものを守り抜くのが強さ」——楽曲の合間に放たれるMAHの言葉は、この5日間の総括のようで、すべてが大事な言葉だった。
ラストは不敵な“KiLLiNG ME”からの、「今日はアンコールとかないから、ここで全部出し切って」と“f.a.i.t.h”で終了。大トリに相応しいアクトだと、今日来た全員が認めることは間違いない。

5日間にわたって行われた「VIVA LA ROCK 2021」これを書いている時点でまだ完全に成功で終わった、とはこの状況下では言えないのが歯痒いけど、改めて音楽ファンの、日本のロックフェスのオーディエンスのマナーの良さ、ルールを厳守する、つまりはイコール、音楽とライヴを守る姿勢に感動した。いや、そりゃそうだよな。だって1年以上、遊び場を取られて悶々としてきた本当に音楽を愛する人たちがゴールデンウィークに集まったんだから。最初に書いたけど、このフェスが開催されたことがありがたくて、変な行動で自分の愛する音楽と場所が貶されるのは見てられないよな。その気持ちは観客一人一人の目の輝きを見ていたらよく分かる。新しい生活様式、という言葉があったけど、これが新しいフェス様式になるのか、あるいは来年はいろんなことを気にせず前みたいなフェスができるのか、それはわからないけど、今日来た人は全員、また来年もこの同じ場所で音楽と出逢いたいと心底願っているはずだ。

テキスト=佐久間トーボ
撮影=小杉歩

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