
コロナ禍を乗り越えんとする
音楽シーンが
もがき苦しんだ末に描き出した
輝ける未来図
個人的な話で恐縮だが、自分はクロスオーバーが大好きだ。たとえば、ロックソングが本人の思惑とは別のところでポップスとクロスオーバーしてヒットしたり、ヒップホップだったはずがロックリスナーにバカ受けしたりするのを見ていると痛快な気分になる。
だから、ビバラ初日のタイムテーブルがこれまで以上に「ジャンルごった煮状態」になっているのを見てニヤついてしまった。どれも特定のジャンルに留まらず、ポップフィールドやあちこちへとはみ出ていった異能ばかり。
そんな象徴的な年に、全ステージの先陣を切ってステージに立ったのは4年ぶりの出演となるビッケブランカだった。総勢6人というバンド編成で臨んだ彼は、“Shekebon!”から“ウララ”へと展開していくなかで、ロックもポップスもダンスミュージックもエモもハッピーも今も昔も全て食らい尽くし、ハイブリッドな音楽愛をビバラへと放出していった。
4日間のトップバッターを任されたことを「うれしい」とシンプルに表現した彼の姿からは気負いや緊張のようなものは全く感じられず、ピアノを基調とした芳醇なバンドサウンドの上で特徴的な美しいファルセットを踊らせる。
余裕たっぷりで落ち着いたステージ運びに見えたが、終盤、彼は感情むき出しで叫んだ。「こういうところでやるの、久しぶりなんだからさあ!」。彼に限らず、こういうフェスの場で得られる刺激はワンマンとはまた違ったもののはず。そんな叫びがトリガーとなって演奏の熱量がグッとあがり、“Ca Va?”からラストへとエモーショナルに駆け抜けていく。“ウララ”の間奏では、早いスタート時間にもかかわらず詰めかけた大勢の観客に向けて手を振りまくり、久しぶりとなる大舞台をじっくりと堪能していた。
ちなみに、PEACE側だけでいうと200LVのステージ寄りの客席はすでにほぼ満員。客層は若く、フェス初心者っぽい雰囲気の人も多く見かけた。こんな時代だけど、音楽の現場に足を運んでもらえることがうれしいし、お目当てのアーティスト以外からも音楽の喜びを受け取れたと信じたい。
変拍子、転調とトリッキーな構成ながらもキャッチーなショートチューン“アク”で、耳が痛いぐらいエッジの立った演奏を始めたのは秋山黄色だ。ソロアーティストでありながら4人編成で攻め立てる。
秋山のシャウト混じりのボーカルは感情を一直線に放出しているようでいて、自分の中にフィルターを1枚カマせて絞り出しているようにも聴こえる。だからこそ演奏にもボーカルにもいい意味で爽快さはなく、その分、心にゴリッと何かが引っかかる。そこが彼の魅力だと思う。
しかし、MCはストレートだ。どのアクトを目当てに来ようが、今、自分の目の前にいるのならそれは自分のお客さんだと言い切り、そんな人たちにつまらない思いはさせないと宣言。「新しい推しが見つかってよかったな! 俺が秋山黄色です、よろしく!」とカマしたのはよかった。明らかに彼のあとに登場するBE:FIRSTを意識していたし、ジャンルを越えたバチバチ感に痺れた。
秋山が鳴らしている音はロックだけど、ソロならではの自由さがある。ラストに披露したミドルなダンスチューン“シャッターチャンス”はバンドでは生まれ得ない。もちろん、バンドよりすげえと言いたいわけではない。彼にはこの方法論が必要で、それがこうしてPEACE STAGEで花開いているのだ。それを誰も否定はしない。いい時代だと思う。
さて、今日PEACE STAGEで最も注目を集めたのは7人組ダンス&ボーカルユニットBE:FIRST。注目の1曲目、7人はビバラの期待に応えるようにいきなり新曲を放り込んだ。しかも、キレのあるダンスを見せるかと思いきや、シンプルで重めなトラックをバックに7人はラフにステージを徘徊ながら、歌唱をメインに見せる曲。意外なスタートだったが、それ以降の楽曲では大胆というよりも繊細でキメの細かいダンスで魅せる。
特に素晴らしかったのは、“Shining One”、“Bye-Good-Bye”、“Gifted.”と続いたラスト3曲。歌はより大胆に、ラップはより豪快に、ダンスはよりメリハリが出てきた。特に7人が横一列に並んで見せる複雑でテクニカルなダンスは鳥肌モノの美しさ。もしかすると序盤は緊張していたのかもしれない。そりゃそうだろう。ジャンルは関係ないとはいえ、デビュー間もない7人が“異文化”であるロックフェスに乗り込んできたんだ。しかし、彼らが残したインパクトは大きい。
これまでボーイズバンドに触れる機会がなかったのに、なぜかあなたに響くものがあったとしたら、それは彼らの想いに心が共鳴したからで、不思議でもなんでもない。好きなジャンルの違いは主義・主張の違いではないのだ。懐疑的な目で彼らのパフォーマンスを観ていた人もいたかもしれない。でも、去年厳しいオーディションを勝ち上がった彼らが言った、「音楽を共有する瞬間にステージの上も下も大も小も関係ない」という言葉は説得力を持って胸に響いたはず。彼らを招いたことは、ビバラにとっても、音楽シーン全体にとっても、ジワジワとポジティブな影響を与えるはずだ。そういう意味でも非常に意義のある35分間だった。
Original Loveはクロスオーバーの元祖とも言える。ねっとりとした歌声でソウル、ファンク、ロックを鳴らしながら、時代も世代も越えて多くの人々から愛される“接吻”という曲を90年代に生み出し、今なお一線でステージに立ち続けているのである。
いきなりステージから放った耳をつんざくようなフィードバックノイズは「これこそがロックじゃい!」というベテランの叫びだったのかもしれない。“Let’s Go!”でのっけから腰にくるファンクを鳴らすのだが、これがもう、誰もが踊らざるを得ないディープグルーヴ。熟練のプレイヤーたちによる極上のアンサンブルは間違いなく本日イチ。“接吻”ではペンライトが客席のあちこちで揺れる。美しい光景だ。
そして、田島貴男のソウルフルでファンキーな歌よ。これがもう、思わず声を上げたくなるぐらいに素晴らしかった。声量、迫力、表情、どこを切っても血が出そうなぐらい魂のこもったシャウト。マジで60年代のソウルシンガーが目の前に現れたかのような感覚。田島は今年のビバラ出演者で一番のベテランだが、誰よりもデカい爆音でたまアリにロックの炎を掲げたのだった。
Original Loveとは真逆の清涼感をPEACE STAGEに運んできたのはAwesome City Club。紆余曲折を経て日本を代表するロック/ポップアクトへと登りつめた彼らだが、ビバラでは2015年のCAVEに始まり、着実にステップアップしてきた。
“Life still goes on”からPORINとatagiによる鉄壁のツインボーカルがたまアリを温かく包み込む。PORINは「勝手にホームだと思ってます」とMCで話していたが、間違いなくホームです。朝の情報番組のテーマソングになっている“Good Morning”を含め、洗練されたサウンドと演奏によるポップチューンが続くが、時折入ってくるモリシーのいなたくも味のあるギターソロがオーサムを完全にポップに仕上げない。ライブの形態やバンドを取り巻く環境が変化しても、きっと根っこのマインドは変わっていないんだろうと思う。だからオーサムのことが好きなんだ。
VIVA LA ROCK 2022初日、PEACE STAGEのトリを飾ったのはVaundyだ。今や数々の人気曲を送り出し、自分も彼が生み出すメロディが好きなのだけど、彼がサウンドメイクにも並々ならぬこだわり持っていることがわかり驚いた。序盤の“東京フラッシュ”、“踊り子”、“napori”あたりのクールなサウンドからはトリップホップ的な匂いまで感じさせ、相当にカッコいい。スネアの響きだけでも延々に聴いていられる気持ちよさだ。
当然、これだけでは終わらない。“恋風邪にのせて”以降の後半戦で演奏はモードチェンジ。熱を帯びたものに変化し、それに合わせて彼の歌唱もよりエモーショナルになり、メロディがストレートに胸を貫いてくる。しかも、全部いい曲。えーと、なんだこれ。器用というのとも違う得体の知れなさ。正直に告白するが、完全に未知の生物を観ている気分だった。自分の中にある常識で処理しきれない。
最後のMCで彼は観客に向かって、「僕は待ちません、追いかけてください」と笑ったが、自分は簡単に置いていかれそうだ。初ワンマンからまだ2年も経っていないそうだが、コロナ禍の間に日本ではとんでもない怪物が育っていた。
コロナ禍でも音楽シーンは止まっていないことはわかっていた。しかし、現場で観るとどのアーティストにもぶっ飛ばされる。それがすごく嬉しいし、焦る。そんなビバラ2022の1日目だった。めちゃくちゃ刺激を受けた。素晴らしいブッキング、そしてそれ以上にそれぞれに素晴らしいライヴだった。
テキスト=阿刀"DA"大志
撮影=釘野孝宏