VIVA LA ROCK 2022

変化した音楽シーンの
次の時代を担う突出した才能たち。
フェスの場で明らかになったその熱量

 ユニークな「個」の魅力を放つアーティストが並んだ2日目のCAVE STAGE。ビバラ初登場は7組中5組。ジャンルも方向性もバラバラだが、音楽シーンに確実に新たな時代の波が訪れているのを感じるラインナップだ。

 トップバッターはマハラージャン。目を引くルックスとユーモラスなワードセンスで注目を集める彼だが、その本領はファンクやディスコポップのエッセンスを飲み込んだ人懐っこいセンスと天性のエンターテイナー精神だ。バンド編成で登場したステージで、挨拶がわりの1曲目“いいことがしたい”からグルーヴィーなプレイを見せ、縦ノリの“僕のスピな人”、アカペラで歌い始めた“eden”と求心力あふれるパフォーマンスを続ける。オーディエンスも手拍子で応え、朝イチという時間帯ながらハッピーなムードに包まれる。かなりパワフルにアレンジしたゴダイゴのカバー“Monkey Magic”から、ラストは代表曲“セーラ☆ムン太郎”。曲後半で見せた熱いギターソロでも生身の魅力を存分に伝える。巧みな演奏も含め、ライブでこそ伝わるアーティスト性に満ちたステージだった。

 シンガーソングライターの映秀。もビバラ初登場。弾き語り動画をきっかけに世に名を広めた彼だが、見せてくれたのは、バンド編成のフィジカルな熱量に満ちたステージだった。ギター、ベース、ドラム、キーボードを従えた編成で、ポスト・ハードコア風のセッションから登場。“脱せ”のテクニカルなアンサンブルから衝動的なシャウトで魅せる“失敗は間違いじゃない”へと続ける。壮大なバラードの“縁”、代表曲“残響”と、アリーナクラスのロックバンドにも通じるスケール感のあるサウンドスケープを響かせる。幅広い表現力と鬼気迫るテンションを持つ歌声の存在感にも、CAVE STAGEを狭く感じさせるほどのエネルギーが宿っている。ラストに披露した、現代ジャズのグルーヴ感を取り込みつつ変幻自在なミクスチャーロックに仕上げた“喝采”も抜群。昨年12月に初のライブツアーを開催したばかりということが信じられないくらいの、卓越した音楽的素養を感じさせてくれた。この先のさらなる飛躍は間違いないだろう。

 続いては大阪発のガールズバンド4人組、ヤユヨ。高校の軽音楽部で結成されてから3年、初のビバラ出演、埼玉県上陸も初めてというフレッシュな存在だ。初恋の嵐の“Untitled”をSEに登場し、1曲目の“いい日になりそう”からリコの伸びやかな歌声を聴かせていく。ギターのぺっぺ、ベースのはな、ドラムのすーちゃんが支えるシンプルで骨太なバンドサウンドもチャーミング。“futtou!!!!”のパンキッシュな疾走感、中盤の“星に願いを”から“おとぎばなし”でのゆったりとしたチアフルなムードも印象的だ。「あなたの生活の応援歌を」とリコが告げてプレイした“あばよ、”も、ヤユヨが掲げる「日常に寄り添う」ポップスとしての深みを感じさせる。思わず笑顔になってしまうようなステージ。ラストの“さよなら前夜”は集まったオーディエンス全員が手を上げ楽しげに身体を揺らしていた。

 名古屋出身の3ピースバンドMakiは、昨年に続き2年連続でのCAVE STAGE出演。初っ端の“ストレンジ”からメロディック・パンクの疾走感あふれる楽曲群を畳み掛け、オーディエンスが拳を突き上げ応える。「ここでまってる 君を待ってる」と繰り返し、ライブハウスで叩き上げてきたバンドのプライドをにじませる“シモツキ”が胸を掴む。山本響が「日常のすべてを吐き出せ」と告げてプレイした“嫌い”でも、続く“フタリ”でも、必死にもがき進んできたバンドの意気と思いを山本が曲中で叫び、それが単に出来上がった音源を演奏するだけじゃないドキュメントとしてのステージに結実している。「一つ約束をしにきました。俺ら、来年もこのフェスに出るつもりなんで」と山本が語り、ラスト“平凡の愛し方”を終えると「またライブハウスで会いましょう」と去った彼ら。肝の座ったライブバンドの生き様を見せた。

 CAVE STAGE後半、鮮烈なビバラ初登場となったのが (sic)boyだ。新世代ラッパーとしてめきめきと頭角を現してきた彼が見せたのは、L'Arc~en~Cielをルーツに掲げる彼のロックな感性と、10年代後半以降のヒップホップの潮流を咀嚼したクロスジャンルなスタイル。DJとギタリストを従えた編成だけでなく、グラマラスなルックスも、佇まいも、既存の枠組みには収まらない存在感を放っている。 “vanitas”や“Creepy Nightmare”など最新アルバム『vanitas』収録曲を中心に次々と披露。「初めてのロックフェスということで気合い入ってます」と告げてからの“HELL YEAH”では自ら抱えたギターでグランジィなフレーズを掻き鳴らす。パワフルな突進力に満ちたパンキッシュな新曲も痛快。ラスト“Akuma Emoji”までの30分で、初めて出会った人も含めて確実にフロアを巻き込む未来のロックスターのカリスマ性を感じさせてくれた。

 こちらもビバラ初登場の日食なつこも突出した個性の持ち主だ。ピアノ×ドラムの2ピースのスタイルでダイナミックな演奏と情感に満ちた歌を放つ。盟友とも言えるドラマー・komakiとステージに上がり、“うつろぶね”から“クロソイド曲線”と最新アルバム『ミメーシス』からの楽曲を続けざまに披露。「遊びましょう、ビバラ!」と放った“Dig”、そして“水流のロック”では最小限の編成で数々のフェスに出演し、ロックバンドの向こうを張って盛り上げてきたミュージシャンシップの芯の強さを感じさせる。<情熱だけで生き残れたらどいつもこいつもヒーローだよ>と歌う“エピゴウネ”など、胸に突き刺さる歌詞の言葉も大きな魅力だ。フロアの後ろまで煽って一体感で包んだラストの“ログマロープ”まで、剥き身の迫力を見せつけるパフォーマンスだった。

「待った? 私も今来たとこよ」――と、CAVE STAGEトリの小林私は登場した途端に寸劇めいた一人語りを開始。一瞬呆気にとられたが、アコースティックギターを激しく掻き鳴らし“目下II”を歌い始めると一気に場を掌握する。YouTube配信から注目を集め、ビバラには弾き語りのスタイルで2年連続出演。自由奔放で素っ頓狂なトークと胸を鷲掴みにするような歌声は圧倒的だ。その表現力をありありと示したのが“HEALTHY”から新曲の“biscuit”への流れだ。色気たっぷりのファルセット、時折はさまれる低音のガナリ声。ケレン味あふれる歌いっぷりには天才性を感じさせる。ギター1本で目が離せなくなる。ラストは逆光に照らされ歌い上げた“香日”。只者ではないオーラを放ちまくっていた。

 型にはまらない異能のアーティスト揃いだったこの日のCAVE STAGE。ライブハウスで磨き上げてきたバンドも、パンデミック下で一変した音楽シーンを象徴するような動画サイトから頭角を現したアーティストも、その身体性で勝負するフェスという「場」があることで真価が伝わってくる。「気鋭」という言葉だけでは説明しきれないギラギラとした輝きを感じる、刺激たっぷりの1日だった。

テキスト=柴那典
撮影=TAKAHIRO TAKINAMI

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