VIVA LA ROCK 2022

PEACE STAGEに鳴り響いた
普遍的なポップス。その裏側にある
言葉にできない感情に
心を揺さぶられた一日

2022年のVIVA LA ROCK、2日目のPEACE STAGEには「歌」の力が際立つ、普遍的なポップスを鳴らす素晴らしいバンドがずらり。しかし、その裏側にはポジティブとネガティブが、希望と絶望が、生と死が隣り合わせでせめぎあい、そこで生まれる言葉にできない感情を「歌」の力へと変換しているような、そんな姿勢にこそ心を揺さぶられるバンドが並ぶ一日だったように思う。

昨年結成10周年を迎え、今年2月に日本武道館公演を成功させたピアノロックバンド・SHE’Sが満を持してVIVA LA ROCK初登場。イントロが始まるとすぐに手拍子が起こった一曲目は“追い風”。井上竜馬のピアノリフ、服部栞汰によるハードロックテイストのギターソロ、エレクトロニックなテクスチャーといったSHE’Sらしさを詰め込んだ1曲ですぐに会場の空気を掴み、ビッグなコーラスとともに清涼感のある風を吹かせてみせる。アコギを用いたエキゾ風味の“Masquerade”、井上がアコギを弾く“Over You”と、ピアノエモを原点に海外のトレンドを柔軟に吸収しながら(MCでは「前にこの会場に4人でブルーノ・マーズを観に来たね」なんて会話も)、独自のポップスを磨き上げてきた10年の歩みが確かに伝わってくるステージだ。中盤で演奏された“Chained”の壮大なスケール感とエモーショナルな歌唱も感動的で、これもやはり歴史の賜物だと言えよう。チェンバーポップ風味なイントロで始まる新曲“Blue Thermal”から再びギアを上げ、井上がハンドマイクでステージを歩きながら歌う“Blowing in the Wind”で場内がクラップに包まれると、ラストはホーンの音色が華やかな“Dance With Me”で大団円。朝一のアクトとしてこれ以上ない爽やかさと、それだけに終わらない確かな実力を存分に感じさせるパフォーマンスだった。

トップバッターのSHE’Sが昨年10周年なら、こちらは昨年デビュー15周年を迎えたVIVA LA ROCKの常連バンド・BIGMAMA。しかし、昨年のVIVA LA ROCK出演後の5月9日(母の日)にサポートだったビスたんことBucket Banquet Bisがドラマーとして正式加入することが発表され、フレッシュな状態でまたこの会場に戻ってきた。“No.8”をSEにメンバーが登場し、金井政人が「VIVA LA ROCKに希望の光を」と呼びかけて始まった1曲目は“セントライト”。最大の武器である東出真緒のヴァイオリンに加え、頭にバケツを被ったままドラムを叩くビスたんの個性も加わって、音もビジュアルもどこか異世界から来た楽団のようなムードを漂わせる。“ダイヤモンドリング”や“Paper-craft”といった比較的初期の曲も演奏されたが、すでに現体制のものになっている手応えがあり、パンキッシュな“SPECIALS”の疾走感も実に彼ららしい。「VIVA LA ROCKの9年目をこの曲でお祝いできたらと思います」と披露された“No.9”で「歓喜の歌」が響き渡り、“MUTOPIA”でユートピアのような高揚感を生み出すと、ラストは金井のアカペラから始まった最新曲“Let it beat”。ビスたんが叩き出す軽快なビートに乗って、もう一度走り出したバンドの今を体現すると同時に、あらゆる困難と向き合う人たちの背中を押すような名演だった。

PEACE STAGE前半戦を締め括るのは、今年2〜3月に行われた2年ぶりの北米ツアーを大盛況で終えたばかりのCHAI! SEとともに4人がフードを深く被って登場すると、ドープなトラックとユナの生ドラムに乗せて、マナ、カナ、ユウキの3人がハンドマイクで歌い踊り暴れる“NO MORE CAKE”でインパクト大のオープニング。そこからドレス姿になり、LAのプロデューサー/ビートメーカーとコラボした“IN PINK(feat. Mndsgn)”でゆったりと体を揺らすと、ユウキとユナによる強靭なリズムとともにマナとカナが2MCスタイルでラップする、Bestie Boysオマージュな“END”、サンプラーも駆使しながら踊り歌う“PING PONG(feat.YMCK)”と、とにかく音楽的に一切制約のない現在のモードがはっきりと伝わってくる。MCでは「日本に帰ってきて初めてのフェスで超嬉しい!」と話し、「みんなそれぞれの違いや個性を丸ごと愛せるといいよね」と伝えて、最新曲の“まるごと”を披露。この曲で初めてバンドスタイルで演奏をしたのだが、エキセントリックなパフォーマンスの一方で、シンプルに演奏する姿のかっこよさが逆に際立ち、メロウなムードの“Donuts Mind If I Do”もとてもいい。最後に再び熱狂を巻き起こした“N.E.O”に至るまで、「これが今のCHAIだよ!」という確信を強く感じさせるステージだった。

2番手のBIGMAMAに続いて、こちらもVIVA LA ROCKには欠かせないアクト・SHISHAMOの登場。メンバーがステージに姿を現すと、宮崎朝子の「1曲目から全力で楽しんでいただきたいと思います。今日はタオルを回していいということなので、とても久しぶりにこの曲をやります」という曲紹介から、ライブの定番曲“タオル”でスタート。まだ声を出すことはできないけれど、一斉にタオルを回すオーディエンスの姿からは、少しずつ以前のライブの姿が戻りつつあることを感じられてグッとくる。MCではVIVA LA ROCKが今年9年目であることに触れ、「オンラインを除けば皆勤賞。初めて出たのはCAVE STAGEでした。SHISHAMOは今年11月にCDデビュー10周年目に入るんですけど、一緒に歩んできたと思える大切なフェスです」と話し、繋がりの強さを感じさせた。MC前に披露されたソリッドな新曲“狙うは君のど真ん中”も、その次の“中毒”もそうだが、近年のSHISHAMOはあらためて3ピースバンドとしてのアンサンブルを磨き直していて、“中毒”はタメの効いたリズムがグルーヴを作っているし、続く“きっとあの漫画のせい”の疾走感も気持ちがいい。ラストはホーンが華やかなSHISHAMO流の応援歌“明日も”と、<今日を愛せなきゃ 明日はない>という最後のフレーズが印象的な“明日はない”を、スクリーンに歌詞を流しながら演奏してライブが終了。また10年目に!

WORLD STAGEに出演した盟友Saucy Dogから引き継ぐ形で、PEACE STAGEにはマカロニえんぴつが登場。“洗濯機と君とラヂオ”で最初からトップギアでスタートし、はっとりが「ビバラ待ってたぞい!」と気合いを入れると、パンキッシュに疾走する初期曲“keep me keep me”、さらに“はしりがき”を畳み掛ける。「はしりがき」というタイトルが初期のツアータイトルから取られていることを考えると、“keep me keep me”からの繋ぎは今年結成10周年を迎えた彼らが走り抜けてきたこれまでの歴史を連想させてグッと来る。「ロックバンドだぜって意地を見せたい」と語ったMCに続いて披露されたのは、長谷川大喜のピアノと歌から始まるマカロニえんぴつのニュースタンダード“なんでもないよ、”。音源のエレドラが生に変わることによってライブではまた新たな魅力を発揮するこの曲から、「ひー、ふー、みー、よー」のイントロで“恋人ごっこ”、DISH//への提供曲のセルフカバー“僕らが強く。”と続いた中盤の名曲連打にはかなり心を持って行かれた。新曲“星が泳ぐ”のサイケデリックジャムなアウトロでロックバンドとしての矜持をしっかりと刻み、「好きなものを、寄りかかってるものをないがしろにされたら、そのときは本気で怒ってください」とオーデェインスに熱っぽく語りかけて、最後に「大事な曲」と言って届けられたのは“ミスター・ブルースカイ”。「サヨナラ」を歌う曲が多いのは、きっともう一度出会うため。

過去に2回VIVA LA ROCKに出演しているスピッツだが、実はステージのトリを務めるのは今年が初めて。盛大な拍手に迎えられてメンバーが登場し、“魔法のコトバ”で幕を開けると、三輪テツヤが十八番のアルペジオを奏で、田村明浩がステージ前方でピョンピョンと跳ねる“春の歌”へ。この軽やかな曲調でギターはレスポール、ベースはフライングVなのが何ともスピッツだが、﨑山龍男が軽やかにビートを叩き出す“8823”ではメンバーとオーディエンス双方にさらに火が点き、田村がステージの両端を駆け抜けて、フロアからは一斉に手が上がっている。「フェスのステージに立たせていただくのはひさしぶり。初々しい感じのおじさんたちを見届けてほしいと思います」というMCからの“チェリー”で幸福なムードに包まれると、本当に彼らがまだ初々しかった頃の曲“アパート”が演奏され、古くからのファンにはたまらなかったはず。さらには「今年の夏で結成して35年ですが、今も常に好奇心のアンテナを張り巡らせていて、最近気になるメロディーがあるんです」と言って、草野マサムネがチョコレートプラネットの「これ絶対上手いやつ〜♪」を歌うレアな一幕も。ライブ後半も“優しいあの子”から最新曲の“大好物”と問答無用に名曲が続き、“涙がキラリ☆”でステージがキラキラ光る照明に包まれたのは、この日随一の名シーンだった。“みそか”でもう一度アッパーに盛り上げ、地鳴りのようなツーバスが踏み鳴らされると、最後に演奏されたのは“こんにちは”。<また会えるとは思いもしなかった 元気かはわからんけど生きてたね>。この歌詞通りの喜びと生命力に溢れた最高のステージで、2日目のPEACE STAGEが幕を閉じた。

テキスト=金子厚武
撮影=釘野孝宏

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