VIVA LA ROCK 2022

ジャンルもキャリアも
多種多様なミュージシャンが熱演した、
まごう事なきフェスの1日

 このフェスの主催の一角を担う音楽雑誌「MUSICA」ほど、メインストリームの音楽を扱いつつ、各ジャンルの新進気鋭のアーティストをも取り上げる音楽雑誌はないだろうといつも思う。レビューページを一度見てもらえればそれは分かるはずだ。
 VIVA LA ROCKがただ単に都市で行われる邦楽ロックフェス以上の意味を持つのは、この4日間のラインナップを見れば分かるだろう。普段からMUSICAで多くのアーティストを取り上げていないと、この老若男女、ライトリスナーからヘビーリスナーまでをカバーしたフェスの出演者に説得力が出ない。初日はもちろん、この2日目のWORLD STAGEほど、キャリアもジャンルも多種多様なミュージシャンが出る1日はないんじゃないだろうか。

 5月1日、WORLD STAGEのトップバッターは、今回がVIVA LA ROCK初出演というandrop。1曲目の“Voice”で音に合わせ、オーディエンスが手拍子をしたその瞬間、初出演にもかかわらず、観客の心を完全に掌握したと感じた。大きな音が鳴る喜び、気が置けない友人のみならず知らない誰かと空間を分かち合う喜び、目当てじゃないアーティストに心奪われる喜び。それが例えソーシャルディスタンスを保つためのフットポイントの上であったとしても、音に乗りたくなるandropがWORLD STAGEのトップバッターで本当によかったと思う。“MirrorDance”での「やっぱり僕はVIVA LA ROCKが好きだ」という替え歌にグッと来る。MCではオーディエンスへの感謝を口にしながら、きちんと「今この瞬間、辛い想いをしている人がいるという事を思いつつ楽しんでほしい」という部分を照らすところにも実直さが窺えるし、音楽の持つ可能性をめちゃくちゃ信じているんだろうなと感じる。オーディエンスに携帯などのライトで照らしてくれませんか、と提案した“Hikari”ではそのリクエストに応えた観客の数々の光が、午前中から幻想的な風景を作り出していた。“Beautiful Beautiful”、“Lonely”、“SOS!”ではビートのある内澤のラップ、ボーカルが堪能でき、このバンドが常に進化と深化を続けてきた事が改めて良くわかる。心で歌ってください、と前置きした“Supercar”はコロナ禍じゃなかったらシンガロングが映える楽曲だが、そこでも手でのリアクションを促し、心地よいリズムと歌声で客席に一体感をもたらしていた。

 続いてはハルカミライ。音出しで轟音をかっ飛ばし、「軽めに」と言いながら“ウルトラマリン”を少し披露し、そこで客席をガッツリ掴む。移動中の人もステージに見入る。これぞフェスの醍醐味だし、ハルカミライのライブにはそのパワーがある。1曲目“PEAK’D YELLOW”から、彼らの持ち味である心臓をギュッと掴まれているような演奏と、それに負けないボーカルが映える。またこの1曲目と2曲目“君にしか”のどちらも、昨年のVIVA LA ROCKで演奏されていたが、昨年よりもっと力強さも説得力も増しているように感じた。ステージを大きく使い、小さなキャパのライブハウスでやっているかのような臨場感のまま、とんでもない人数の観客の心を掴んでしまう。この熱量を保ち続けるのは生半可なことではないと分かるから毎回彼らのライブには新鮮な感動がある。“ファイト!!”でフラッグを持ち出した橋本には色気が迸っていたし、“世界を終わらせて”でのアカペラにはこのバンドを追いかけ続けたいというと思わせる信頼感があった。「フェスが一歩ずつ前に進んでる気がする」という言葉をこんなにも熱いライブをしてくれた彼らが言ってくれるのは、とても意義のあることだと思う。彼らのロックはこのフェスのラインナップにバラエティをもたらしているなと改めて感じた。

 そしてNUMBER GIRL。このバンドが今回VIVA LA ROCKに出演する意義はかなり大きいだろう。若手のバンドを追いかけてきた人たちがこのバンドに喰らうのはもちろん、リアルタイムでNUMBER GIRLの登場から見続けてきた人たちが今の若手バンドの良さを知るのはとても健康的だ。サウンドチェックからこの4人にしか出せないグルーヴを聴かせながら、「また来週お会いしましょう」と言って煙に巻くのもディスイズ向井秀徳って感じで素晴らしい。「福岡市博多区からやってまいりましたNUMBER GIRL」とお馴染みの口上からスタートした1曲目は“ZEGEN VS UNDERCOVER”。以前より田渕ひさ子のギターも、中尾憲太郎のベースも、アヒト・イナザワのドラムも、音に厚みが増してて素晴らしい。「鉄の風が鋭くなってきた」という口上で“鉄風 鋭くなって”は分かるけど、お馴染みとは言え「焼酎貴族トライアングル」で“CIBICCOさん”は本当に訳がわからない、でもシビれる。もしかすると、復活した後のNUMBER GIRLのライブを見るのは今回が初めてという人も多かったかもしれない。なんなら、10代20代にとっては復活前を知らない人も多いだろう。佇まいもライブのパフォーマンスもめちゃくちゃ不思議で、それでいて演奏が凄まじくて、こんなバンド全世界探しても見当たらない、それがNUMBER GIRL。傷跡になるくらい人々の記憶に噛みついてくる。本編ラストの“I don’t know”がリリースされたのは20年前、宮﨑あおい主演の映画『害虫』の主題歌だった。20年前の曲があの頃よりカッコよくてリアリティがあるのはどういう事だ。終わった後の自己紹介も脱構築で最高だった。

 昨年に続いてSaucy Dog。出演ごとに着実にステージを登っている印象のある3人だが、1曲目“煙”から石原の力強い歌声と、ギター、ベース、ドラムのアンサンブルが見事で、人気と実力がしっかりと伴って成長している幸福なバンドだなと感じた。Saucy Dogを見ていていつも感じるのは、技術や楽曲のクオリティはどこをどう取ってもプロフェッショナルでオリジナリティの塊だけど、3人の雰囲気、特にライブでの振る舞いを見ていると、軽音サークルの初ライブのような初々しさがある事だ。表情も楽器のプレイも、大きな音を鳴らせる喜びを全身で表現しているようで、感情が満ち溢れていてとても微笑ましい。「去年のビバラの前日に彼女にフラれた」という石原のMCも等身大で好感が持てる。その後に披露されたのが“シンデレラボーイ”なのも素敵だ。ラブソングを歌うゆるやかなバンド、というイメージを持っていた人たちにとっては“雷に打たれて”、“ゴーストバスター”から放たれる生命の放射に衝撃を受けたのではないだろうか。ラスト“グッバイ”でギターを縦にして手拍子を煽る石原の表情は、ロックスターそのものだった。

 もはや異ジャンルからのロックフェス出演、という冠言葉を入れなくてもいいぐらい、知名度、実力、そして盛り上げるスキルも含めて堂々としたものなCreepy Nuts。先日DJ松永がコロナに感染し、ライブをR-指定のみで行うなど、責任感の強い松永の心中を察したのだが、サウンドチェックでルーティンを披露する彼を見て安心した。1曲目は“合法的トビ方ノススメ”。ヒップホップシーンで矢面に立って、売上と世間的認知、それと楽曲のクオリティをどちらも保ったまま活動することの難しさを知っているから、テレビで活躍する2人を見るとジーンとしてしまうのだが、こうやってライブを見るとただただクソ上手いMCとDJなんだよな、とそれはそれでジーンとしてしまう。VIVA LA ROCKはほぼ最初の方に声かけてくれたフェス、と2人は感謝の念を述べ、ここ数年で声を出さずとも盛り上がれるようになったみなさんはのびしろしかない、というMCから“のびしろ”を披露。このくだりは決まりすぎ! ライトもオレンジ色になった“Bad Orangez” では松永のスクラッチも美しく呼応。続いての“かつて天才だった俺たちへ”で改めて洗練されたリリックとトラックを堪能しながら、不良にも賢い人間にもなれないけどエネルギーだけ溢れそうな若者を、この2人はどれだけ救ってきただろうと感慨深くなった。ラストはVIVA LA J-ROCK ANTHEMSから生まれた“日曜日よりの使者”を熱い想いとともに披露。常々思っていたR-指定の歌声の色気を感じられた。

 VIVA LA ROCK、2日目のトリを飾るのはMy Hair is Bad。先日リリースしたアルバム『angels』は自身の20代に蹴りをつけるような、彼らのネクストステージを感じさせる名盤だった。そんな彼らが1曲目、2曲目に選んだのは“アフターアワー”、“ドラマみたいだ”という2014年リリースのアルバム『narimi』に収録された楽曲。進化を続ければ続けるほど、過去の曲が野暮ったく聴こえる危険性もあるが、この2曲に全くそういう雰囲気がないのは、マイヘアが今ももがきながら、その姿勢で多くのリスナーの共感を得ているからだ。「本日トリを務めさせていただきます」「すべてに感謝して」という椎木のMCにひとつも嘘はない。
 “真赤”、“熱狂を終え”もそう。あの時と同じ温度でブラジャーのホックについて歌ってるし、同じ顔で地元の友と歌ってる。“ディアウェンディ”の中で歌われた、椎木による叫び「数字があるバンドじゃない、ベテランじゃない、金を稼げるバンドじゃない、こういうフェスでトリをとれるバンドはただカッコいいバンドだろ」。そう、スポットライトで観客の視線を集めて、さらけ出してオーディエンスに吐き出し続ける椎木はめちゃくちゃ危険でカッコよかった。“フロムナウオン”でもずっと叫びをバンドの演奏に乗せ続ける。あんなふうになりたいって思わせる事が良い表現の大事な要素のひとつだとすると、この日のマイヘアはあんなふうになりたい、と思わせるバンドだった。続いて最新作から披露された“歓声をさがして”には<なんでもいい 好きならいい>という歌詞が出てくる。ライブ、フェス好きであれば肩身の狭い想いをしてきたここ2年を、VIVA LA ROCKというオーディエンスとアーティストと運営が協力し合ってできあがった幸福な場所で、マイヘアがそう言ってくれる事の尊さに涙が出てしまった。本編最後は“いつか結婚しても”。聴く者全てを自分のための歌だと思わせるマイヘアの魅力が詰まったこの曲で、2日目のアクトは終了。トリとしてこれ以上ないアクトを見せてくれた。

 改めて、この日のWORLD STAGEには新たに好きな音楽が増える、そんな可能性がパンパンに詰まった尊いラインナップであったし、フェスとしての魅力が詰まっている幸せな空間だった。

テキスト=佐久間トーボ
撮影=小杉 歩

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