VIVA LA ROCK 2022

ライブバンドたちが掲げた
復活の狼煙。
世代を超えたバトンは
新たな革命へと受け継がれる

 ビバラ3日目は、それぞれ独自の方法論でロックシーンを駆け上がっていったミクスチャーの巨人たちが名を連ねた。先人から学び、海外のモノマネとは異なるオリジナリティを形成していった。今日のラインナップは00年代以降のジャパニーズ・ミクスチャーの歴史を辿る旅だったという見方もできる。

 どのバンドもモッシュダイブが当たり前の環境で音を積み重ねていたし、彼らは全国を1台のバンで駆け回り、大小のライブハウスを中心に交流を重ねることによって国内におけるツアーバンドの在り方をより広く浸透させた。それだけにコロナ禍の影響は他のジャンルよりも重くのしかかった。長い年月をかけて観客とともにライブハウスのカルチャーを守ってきたが、コロナはそんなシーンの蓄積を簡単にぶち壊していった。しかし、彼らは潰れなかった。そして、2022年もまたこうやってビバラにやってきてくれたし、あちこちの場面で連帯する姿を見ることができた。それはフェスならではの演出ではなく、ビバラの場で会えたからこその友情の発露だった。四星球・北島が叫んだ「今日こそが第2次フェスブームの幕開けでございます!」はただの聞こえのいい言葉ではなく、様々な苦難を乗り越えた末に吐き出された未来への希望なのである。

 四星球は国内の第一線で活躍する数少ないコミックバンド。暗くなりがちな昨今、彼らのような存在にはかなり救われる。今日もそうだった。「今日はWORLD STAGE1組目、四星球のライブにたくさんゲストが参加してくれます!」という影アナから、【ビバラのステージセットとして吊られている黒い人形】こと北島、【ヤバTコヤマくん】ことまさやん(Gt.)、【打首JUNKOさん】ことU太(Ba.)、そして【マンウィズメンバー】ことモリス(Dr.)が登場……35分のライブとはいえ、彼らの一挙手一投足を書いていくと数千文字になってしまうのでざっと書くと、“運動会やりたい”で観客を赤組と白組に分け、みんなでスクワットしたり、テンションが上がったときの高田純次のものまねをしたり、YMCAを踊ったり、「観客を笑わせる」というよりも「みんなで笑う」というスタイルで突き進む。タイトルコールの時点の爆笑をかっさらったヤバT、打首、マンウィズのカバーメドレー“あつまれ!日本の米はFLY AGAIN”もよかった。その一方、“クラーク博士と僕”の間奏で「前までのフェスの空気が戻ってきたと思いません? もう少しやなと思います! でも、戻るんやなくて、あの頃よりもおもろいものをつくりたくありませんか!」と熱くカマすんだからズルい。こうして四星球は泣けるコミックバンドとしてWORLD STAGEに勢いをつけたのだった。

 「そちらの方、四星球(のライブ)に出てました? 今日、2ステ目?」と打首獄門同好会・大澤敦史(Gt/Vo)からサウンドチェック中にイジられていたのはステージの下手を守るjunko(Ba)。フロアからは笑い代わりの拍手が送られた。こうやって打首は本編前からビバラ3日目の流れや主催者、観客の気持ちをしっかり把握。その上で爆音を鳴らしたのだった。
 最初のブロックは、コロナが生んだアンセム“新型コロナウイルスが憎い”から“足の筋肉の衰えヤバイ”で久しぶりのライブでテンションが上がっている観客をクールダウンさせる。そして、“筋肉マイフレンド”でヘヴィグルーヴがフロアを震わすなか、観客は四星球に続くスクワットタイムに突入。最後のブロックでは、ちょうど昼時ということを意識した“私を二郎に連れてって”、“島国DNA”、“日本の米は世界一”という麺魚米のトリプルコンボで締める。
 この日、打首は新曲も披露。“地味な生活”は、重めなラップメタルから緩いレゲエへと展開し、サビではサンバのような陽性のリズムとメロディで魂を全解放していくという、複雑ながらキャッチーな楽曲。しかし、どんなに明るくてもサビの歌詞は<地ー味ー、地ー味ー>なのだ。3ピースとは思えない音圧ながら、今日イチの懐の深さでHEY-SMITHへとバトンを渡したのだった。

 HEY-SMITHも本当に素晴らしかった。去年後半から怒涛の勢いでライブを積み重ねているだけあって、前のめりで重量感のある演奏や魂の乗った歌は鉄壁。しかし、それ以上にメンバー6人の思いがステージですべてぶちまけられていたところに自分は最も心を掴まれたし、彼らの思いをしっかり共有できたと思えたことがうれしかった。彼らが鳴らすハッピーなスカパンクチューンはどこまでも楽しい。フットポイントを中心にスカダンスが大発生した“Radio”、バンドからフロアへ愛を届けた“The First Love Song”などはメンバーの笑顔につられてこちらも笑ってしまうほどだったし、「もっともっともっと踊れ踊れ踊れ踊れ踊り狂っていけー!」という猪狩秀平(Gt./Vo.)の煽りに乗って最も踊り狂ってたのが、佐渡満(Sax)をはじめとするメンバーだったり、2万人を前にした演奏を6人は心底楽しんでいた。しかし、それだけで終わらないのは彼らが鳴らしている音楽がパンクロックだから。「この場所でこの曲をやりたい! この曲を響かせたい! 対岸の火事なんかじゃないぞ! すぐそこにある現実! パンクバンドとして最後にこの曲を歌わせてください」とプレイしたのは“Stop The War”。このときばかりは6人全員が真正面を見つめ、真剣な表情で曲を届けるのだった。ちなみに今日、猪狩は「STAR WARS」のTシャツを着ていたのだが、よく見ると「AR」に「OP」が上書きされていた。STOP WARS。

 MCで「4月にバンド結成15周年を迎えた」という報告に対して起こった拍手に、「拍手するのは今じゃない」と制したのはcoldrain・Masato(Vo.)。前回ビバラに呼ばれたのは結成10周年の5年前。記念の年にしか呼んでくれないのかと彼は怒っていたわけだ(のちのMCで「半分本当で半分嘘」と説明)。それでも5人の姿からは怒り以上にステージに立つ喜びが溢れていた。「制限のあるなかでライブなんてやりたくない」というところから、「ライブをやれるだけで幸せだ」と感じられるところまできたとMasatoは話したが、その幸福感は極悪な音圧(ホルモンのナヲが自分たちのライブの冒頭で「ほとんど外タレ」と評していた)や腹の底から湧き上がるシャウトに表れていた。こんなものが日本で観られることに感謝しなければならないぐらい質の高いラウド/メタルショーだった。そう、フェスの40分とはいえ、もはや彼らのパフォーマンスは一級品のショーなのである。
 オープニングSEが鳴った瞬間に起こった盛大なハンドクラップ。ステージ後方のスクリーンに浮かび上がる「coldrain」の文字。シアトリカルなオープニングは完全にワンマンの空気だったし、そこから繰り出される“THE REVELATION”、“ENVY”、“MAYDAY”という代表曲の連打に観客は大ジャンプするしかなかった。さらに、「最新にして最強」と披露した新曲“CALLING”は7月にリリースされる新作への期待度を上げるには十分。ラストの“PARADISE (Kill The Silence)”をプレイし終えたあと、「仲間に囲まれて音楽をできることが幸せです」と話すMasatoの顔には晴れ晴れとした笑みが浮かんでいた。

 ストイックに攻めたcoldrainとは対象的にビバラ初出演のMAN WITH A MISSIONは、レーザーが飛び交い、ステージやフロアの頭上でミラーボールが回るというど派手な演出でプレイした“FLY AGAIN -Hero's Anthem-”でいきなりフロアの熱を沸騰させた。ビッグアンセムにはこれぐらいの演出がよく映える。さらに、続けざまにプレイした“database”ではステージ袖から飛び出してきたTAKUMA(10-FEET)が参加し、観客を飽きさせない。
 しかし、他のバンドと同様に彼らもただ盛り上げることをよしとはしなかった。中盤ブロックでは「体制に楯突くという側面もあるけど、世の不条理、理不尽に抗う意志がロックの本質」と改めてロックを定義づけたあと、ミッドテンポの“Remember Me”へ。自然発生的に照らされるスマホのライトが美しかった。ライブが観られる喜びは当然ある。しかし、それだけでいいわけではない。こんなときだからこそベーシックに戻ることが大事だと彼らは示してくれたのだった。

 ロックシーンの強者が集ったビバラ3日目のトリを飾ったのはDragon Ash。日本のメジャーシーンで初めてミクスチャーロックを鳴らした彼らは、ステージに立てる喜び、熱心なロックファンの前で演奏できる喜びを歌とMCの両方でストレートに表現していた。
“New Era”、“Tiny World”というコロナ禍以降にできた楽曲を積極的にプレイすることで自分たちの現在地を明確に提示し、<この場所からまた歩き出そう>と呼びかける大ヒット曲“Let yourself go, Let myself go”や<We can’t live without music><So let’s jump>と歌う“Jump”といった過去曲で彼らの変わらぬ想いを笑顔で我々に伝えてくる。Kjはよく「ロックフェスはお前らのもんだ」と言うが、今日ほどこの言葉が響いたことはないし、この日プレイされた楽曲を通じてDragon Ashはずっと普遍的なことを歌い続けていたんだなと再発見もした。ラストとなった“Viva la revolution”の演奏前にKjが言った「好きな音楽が演奏できてとても幸せです」というあまりに素直なひと言は、今日だけでなく今年のビバラ出演者全員に共通した想いだったはずだ。それなら我々はこう返したい、「好きな音楽が聴けてとても幸せです」と。

テキスト=阿刀"DA"大志
撮影=小杉 歩

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