
戻ってきた祝祭空間、
バトンをつなぎ
次に進むロックフェスの物語
VIVA LA ROCK、4日間の最終日。1日、3日に続き、この日もチケットは直前にソールドアウト。歓声やシンガロングやコール&レスポンスは制限されているけれど、約2万人が集まったオールスタンディングのフロアには、コロナ前には当たり前だった一体感と熱気の光景がよみがえってきている。その上で「前に戻る」のではなく「次に進む」ことを選んだアーティストとフェスが織りなす新たな祝祭のムードが立ち上がりつつある。
それを最初に示したのがWORLD STAGEのトップバッター、the telephonesだ。地元・埼玉県北浦和出身。活動休止期間中だった2016年、2017年以外は、無観客生配信だった「ビバラ!オンライン 2020」も含めてビバラ皆勤賞。各ライブのオープニングに鳴り響くジングルSEは毎年(もちろんシャウト含め)石毛輝が制作しており、ビバラと長く濃い関係を築いてきたアーティストだ。
「埼玉県北浦和からVIVA LA ROCKをダンスフロアに変えにやってきたぜ!」と石毛が叫び、“I Hate DISCOOOOOOO!!!”でライブをスタート。メンバー4人は浦和レッズとビバラのコラボサッカーシャツ着用のスタイルだ。岡本伸明はステージ狭しと走り、“Baby, Baby, Baby”では手に持っていたカウベルをステージに呼び寄せたフェスのプロデューサー・鹿野淳に渡して叩きまくる。朝からいきなりトップギアのハイテンションなパフォーマンスだ。
中盤では、ラテンのテイストも混ぜ込んだ昨年11月リリースの会場限定シングル“Get Stupid”、そして「ライブハウスで今までみたいにみんなとフランクに乾杯できたらいいなと思って作った曲です」と告げて披露した陶酔感たっぷりの新曲“Feel Bad”も披露。進み続けるバンドの今も示す。
「ステージから見える景色がとても楽しいです」と石毛は笑顔で話していた。ラストに披露した“Love&DISCO”でオーディエンスが掲げたスマートフォンのライトとミラーボールが放つキラキラとした光に包まれたフロアは、とても綺麗だった。
続く東京スカパラダイスオーケストラもお祭り感たっぷりのステージ。1曲目“DOWN BEAT STOMP”の途中から先ほどPEACE STAGEに出演したばかりのTAKUMA(10-FEET)を迎え入れ、コラボ曲の“閃光”からスカパラ流にアレンジした10-FEET“hammer ska”のカバーを続けざまにプレイ。さらにはGAMOがオーディエンスを煽り黄色のスーツに身を包んだフロント6人が身を寄せ合ってプレイした“Paradise Has No Border”へと続ける。鉄板ナンバーとスペシャルゲストを惜しげなく繰り出すスカパラの強靭さを見せる。
続いてステージに迎え入れたのは、ALI。今年にスカパラが始動した新たなプロジェクト「VS.シリーズ」第1弾の相手だ。「VS.シリーズ」とは、これまでのようにボーカリストをフィーチャリングするのではなく、バンド同士ががっぷり組み合うというコンセプトのコラボ。スーツに身を包んだLEOを筆頭にALIのメンバーを迎え入れ、さらに「助っ人としてブチ上げに来ました」というシークレットゲストのAKLOがサプライズで登場して、まずは『呪術廻戦』エンディングテーマのALI“LOST IN PARADISE feat. AKLO”をスカパラヴァージョンで披露。その上で、「スカパラVS. ALI」による新曲“サボタージュ feat. ALI”をライブ初披露したのだが、世代を超えたバンド同士のパワフルな化学反応が生まれていた。ちなみにALIにとってはこれが初めてのフェスのステージだという。LEOは「音楽万歳!」と力強く叫んでステージを去った。ラストは疾走感たっぷりの“HURRY UP!!”。デビュー33年目に至っても新たな挑戦に挑み続ける貪欲な姿勢が伝わってくるステージだった。
続いては4月に主催フェス「YON FES」を3年ぶりの成功に導いたばかりの04 Limited Sazabys。彼らが示したのは世代を代表するバンドの一つになった今のフォーリミが持つ無類の求心力だ。“Remember”から“Now here, No where”、“Warp”、“My HERO”とライブアンセムを続けて投下すると、スタンディングエリア前方のお客さんだけでなくアリーナ後方やスタンドのお客さんも大振りなアクションで応える。
「久しぶりです、この感じ! ロックシーンが徐々に戻ってきてます。希望的観測を込めて、明るい未来からのメッセージ!」とGENが告げて“message”へ。こういうMCの一言一言からも、ステージから見える光景の変化を改めて感じる。ロックフェスというものは主催者やアーティストだけで成立するものじゃない。音楽を全身で楽しむたくさんのオーディエンスの放つ熱が一つの塊になって、それを共に感じ合うことで無類の喜びが生まれる。バンドとファンが一対一で向き合うワンマンライブの空間とも違い、そこにジャンルや世代を超えた出演者たちの横の関係が織り込まれることで「シーン」が体感できるのもフェスの魅力だ。
GENはMCで、何かと息苦しいことが多い今だからこそ、こうして生で自分の気持ちを感じる瞬間を大切にしてほしいということを饒舌に語る。“Feel”から「ビバラ、もっと来い!」とRYU-TAが煽り全員を巻き込んだ“swim”でライブは終了。チアフルなメロディ、切れ味鋭い演奏、ハイトーンのヴォーカルと、フォーリミの魅力はたくさんあるが、鳴らしている音と情熱に満ちた思いが真っ直ぐに結びついているところも大きなポイントだろう。
4アクト目のBiSHは今回がVIVA LA ROCK初登場。しかし初めてとは到底思えない一体感をフロアにもたらした。バンド編成を従えた6人がステージに現れると、代表曲“BiSH-星が瞬く夜に-”からアグレッシブな“GiANT KiLLERS”で一気にボルテージを上げる。「楽器を持たないパンクバンド」というキャッチコピーを血肉を持ったものにしてきたグループの説得力を見せつけるような、迫力たっぷりのパフォーマンスだ。「人生最高の日にしようぜ!」と叫ぶハシヤスメ・アツコにオーディエンスが拳を突き上げて応え、続く“ぴょ”ではメンバー全員が横一列に並んで迫力たっぷりのダンスを見せる。
昨年には錚々たるロックバンドたちを迎えた対バンツアーも開催し、パワフルなステージパフォーマンスを磨き上げてきたBiSH。「子供も大人も関係なく、この言葉が素直に言える世界がありますように」とセントチヒロ・チッチが告げて披露した“ごめんね”、壮大な“My landscape”と、中盤はメンバーの歌声をじっくり聴かせる展開。ハスキーな響きのアイナ・ジ・エンド、真っ直ぐなセントチヒロ・チッチ、パンキッシュな鋭さを持つアユニ・Dのヴォーカルが特に印象に残る。
「もしかして私たち、VIVA LA ROCKには出れないのかもしれないと思ったこともあったんです」とMCでチッチは語る。これまで姉妹イベントの「ビバラポップ!」やVIVA LA J-ROCK ANTHEMSのゲストボーカルとしての出演はあっただけに、初出演の感慨も深いようだ。「出会ってくれてありがとうございます」と続け、“オーケストラ”へ。エモーショナルなこの曲にも、ラストに披露した “beautifulさ”にも、「せーの!」で全員がシャンプして演奏を終えたエンディングにも、刹那の美学を持って突き進んできたグループがいつの間にか手にしてきた大きな包容力のようなものが宿っていた。
「こんばんは、クリープハイプです。突然ですが、セックスの歌、歌います」と尾崎世界観が告げ、クリープハイプは“HE IS MINE”でライブをスタート。定番になっていた曲後半のコールは「当たり前のように、無言で、自分の中で出してください」と告げる。コロナ禍のイベントやフェスにも多数出演してきた彼らは、ステージの上からオーディエンスと親密な関係を築く新しいやり方を洗練させていた。
長谷川カオナシが歌う“月の逆襲”の後、“キケンナアソビ”、“しょうもな”、“一生に一度愛してるよ”と、緩急をつけた構成で最新アルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』の収録曲を続けていく。ハイライトは“ナイトオンザプラネット”。子供の頃の思い出やバンドを始めた頃の悔しい記憶を語った尾崎世界観は、歌詞の一節をアカペラで歌ってからこの曲を披露。抑えたバンドアンサンブルと低いトーンで歌う新境地を見せたこの曲が、バンドの新たな代表曲になっていることを感じる。
「懐かしくて愛しい景色だと思います。けれど、別にこの数年を否定したくないなとも思います」と、MCで尾崎は語る。お客さんが黙って歌を聴いてくれるようになったこと、歓声がなくてもいつもちゃんと歌があった、と続ける。そして「クリープハイプは今日一日の主題歌を歌いたい」と告げて“ex ダーリン”をラストに披露。インディーズ時代から大事にしてきた一曲だ。じんわりと胸の内に歌が染みていくような感触が残った。
そして、4日間の大トリを任されたのはsumika。初のヘッドライナーである。
巧みなポップセンスと変幻自在な発想でキラキラとしたグッドミュージックを奏でてきたsumika。抜擢に応えたこの日に見せてくれたのは、真っ直ぐに歩んできた彼らがいつの間にか身にまとっていたバンドの大きなスケール感だった。
「2020年から続いた暗闇も、今日だったら晴らせそうな気がします」と片岡健太が告げ、“ふっかつのじゅもん”をダイナミックにプレイしてライブをスタート。お祭り感たっぷりの“1.2.3..4.5.6.”でフロアに熱気をもたらすと、チアフルな“Lovers”へ。晴れやかな顔でドラムを叩く荒井智之、メンバーに目配せしながらピアノを奏でる小川貴之、全身を振りかぶってギターを弾く黒田隼之介と、メンバーそれぞれの姿も印象的だ。エモーショナルに駆け抜ける“ファンファーレ”でも、音楽を一心に楽しむ彼らのエネルギーがありありと伝わってくる。
「最後まで残ってくれて本当にありがとうございます!」と、片岡。ヘッドライナーの重圧を感じていることを語りつつ、「選んでくれたってことは自信持っていいと思うんで、今日しかできないライブをしたいと思います」と告げる。そこからは、爽快なハーモニーを響かせる“イコール”に、マヌーシュ・ジャズの洒脱なテイストを活かした“Strawberry Fields”、リラクシンなR&Bナンバー“Summer Vacation”と、4人の幅広く豊かな音楽的素養とミュージシャンシップを見せる展開。お客さんも心地よく身体を揺らす。
眩い光に包まれて熱く歌い上げたバラードナンバー“本音”を終え、片岡は「今日来てくれたあなたに、最後に、一つだけ忘れないで持って帰ってほしいことがあります」と話す。フェスというものが、アーティストでも関係者でもなく、そこに来ることを決めた一人ひとりのお客さんの選択によって成り立っているということ。それが来年に、さらにその先につながっていくということ。誰かがバトンを落としたらイベントなんて簡単に無くなるということ。だから楽しんだお客さんの胸の内で感じたものが、未来を作っているということ。華やかでカラフルな佇まいの裏側でsumikaというバンドが持っている「覚悟」を感じさせるステートメントだ。
「俺たちらしく、笑って、ハッピーに、あなたのハートにぶっ刺して帰りたいと思います」とラストは“Shake & Shake”。鳴り止まない拍手に応えてアンコールには“雨天決行”。さいたまスーパーアリーナのフロア全体を明るく照らすライトのもとで披露した決意の歌は、とてもドラマティックに響いた。
すべての演奏が終わって、記念撮影を経て、規制退場のアナウンスを背中に聞きながら帰途についたお客さんは、きっと心地いい余韻を身体に感じていたはずだ。
来年はビバラ10周年。2020年代の新たなロックフェスのストーリーが始まる。そういう実感が強くあった。
テキスト=柴那典
撮影=小杉 歩