VIVA LA ROCK 2023

総括レポート

幅広い年齢層が満足しただろう
この日のSTAR STAGE。
音楽の意義がここにあった

外は半袖1枚でもいいくらいの暖かい陽気、なんなら暑い気候の中、VIVA LA ROCKの2日目、STAR STAGEもとてつもない熱気に包まれたステージを見せてくれた。

STAR STAGEのトップバッターはキタニタツヤ。“悪魔の踊り方”からまだ午前中とは思えない不穏さでSTAR STAGEの空気を完全に支配する。その場の空気に迎合するのではなく、彼が思い描いた空間を作り上げる。彼の音楽は創造と破壊を繰り返し、その一瞬の刹那の美しさを描いていると思っているのだけど、この日のステージはまさにそうだった。

重低音の中、彼が放つ芯をつく言葉。会場の空気、しかもSTAR STAGEの1発目という重要な役割の中、生半可な覚悟だと冷えさせてしまう可能性もあるのに、そんなことは露ほども思わせないステージ。2曲目の“永遠”でハンドクラップがオーディエンスから自ずと出た時点で幸福な主従関係が生まれている。自分のライブの間は撮影OKと伝える、重厚なライブとのギャップも素晴らしい。

MCでは、昨日会場近くでおばあちゃんが一人でやってる居酒屋で食事をし、そこで出会った人に今日のチケットを渡したことを報告。「人との縁が大事」「音楽をもって、人との縁を実行していきたい」という言葉は、今日の彼の音楽との向き合い方を見ていたら大きく頷けるはずだ。今日ライブを見た人は、キタニタツヤと音楽で繋がっただろう。

演奏のタイトなリズムとキタニのボーカルのアンサンブルが心地よい“Stoned Child”、鬼気迫る表現に特効が映えた“聖者の行進”も素晴らしかったが、特に気持ちを持っていかれたのは“スカー”。破壊と創造の美しさを思った。

続いてはTENDRE、サウンドチェックから「何人いるんだろう」「ジングルが鳴ったら始まるんで、ジングルまでカウントダウンしましょう」というナチュラルなMCをしていたが、1曲目の“LIFE”のホーンが高らかになった瞬間に、会場全員が釘付けになるほどの、圧倒的な音の力。キーボード、ベース、コーラス、ドラム、パーカッション全ての演奏がしっかりとこちらにグラマラスに伝わってくる。「手を挙げられる人いますか?」で放たれた“FANTASY”、メロウな雰囲気が心地よい“DOCUMENT”など、彼にしか出せない空気を放っていた。

「10年間でいろいろな音楽を楽しめる祭典になった」とMCでTENDREは語ったが、毎年そうだけど、特に今年のVIVA LA ROCKは幅広い音楽が彩っていて、中でもTENDREの音楽をこの規模で、この音の中聴けるのはとても幸せなことだと感じた。

<話したいの 今此処でさ>から始まる“hanashi”という楽曲から、他者との調和を大前提に楽しむ、という今年のVIVA LA ROCK、ひいては音楽の根源を表現したような楽曲だなと感じ、勝手にグッときてしまった。

彼を待っていたファンはもちろん、多くの人々の注目を集めただろう、秋山黄色。結論から言って、何か別の思惑や事象を抜きにして、ライブを語ろう、と自分は思った。擁護するわけでは一切なく、ただただ、萎縮しすぎることもなく、この日の彼のライブは素晴らしかった。

「音楽と人間性は違う、って言いたいけど、一緒で」と語った彼は、その場にいる人、来れなかったけど彼のことを好きなリスナー、そして、どんなもんか興味で見たファン、全員に向かって謝罪し、その上で、音楽で伝えることが一番伝わると腹を括ったのだな、と感じた。

秋山黄色ってこんなに大きかったっけ?と思わせるくらい、ステージでの彼は大きく見え、“Caffeine”では今ここでライブができることを体いっぱいで受け止めているように、飛び跳ねていた。

「手を挙げてもいいし、手拍子してもいいし、声出してもいいし、声出さなくたっていいよ、けどやってたら絶対手がピンて伸びるから」「全力ってやつを見せるんで、全力だしたことない人は出してください」

本編ラスト、「俺の全部です」ってMCから“やさぐれカイドー”を披露。地を張って、声を振り絞り続ける秋山黄色に、全ての意見を引き受けて、それでもなお、表現をし続ける覚悟を見た想いだった。

UNISON SQUARE GARDEN。毎回、ライブで観るたびに、このバンドの他に代えの効かないオリジナリティ、演奏の凄まじさに食らうのだけど、この日のユニゾンは過剰じゃなく、このステージ史上、一番「大きな音」を鳴らしているように思えた。

田淵智也(Ba)のベースがうなる“Hatch I need”から、一瞬の隙も、行きつかせる暇もないステージ。“シュガーソングとビターステップ”では、大袈裟ではなく、会場の全員が飛び跳ねているような熱気と振動が体中を駆け巡った。

“チャイルドフッド・スーパーノヴァ”では斎藤宏介(Vo&Gt)による、合間のホイッスルがいいアクセントになっていたり、“カオスが極まる”では赤いステージ照明も映えていた。何より、斎藤、田淵、鈴木貴雄(Dr)の3ピースが繰り出す、圧巻の演奏。この3人でしか成立し得ない構造と魅力を持った楽曲群の連打で会場の全員をユニゾンの虜にしきってからのラスト、“フルカラープログラム”がまた見事だった。轟音が一瞬静寂に包まれ、歌い出しを待つ瞬間、それを見越してフェイント入れたりする斎藤も、いちいち心憎い。過剰な言葉は一切なく、音楽だけで伝え切ったステージだった。

そして、VIVA LA ROCKといえば、のVIVA LA J-ROCK ANTHEMS。年に一度、日本のロックの名曲の力を歌い鳴らすべく、VIVA LA ROCKだけでライヴを行うスペシャルバンドだ。Ba:亀田誠治、Gt:加藤隆志(東京スカパラダイスオーケストラ)、Dr:ピエール中野(凛として時雨)、Key:伊澤一葉からなる素晴らしいバンドが、様々なゲストボーカルと共に次々とアンセムを奏で響かせていくという、このビバラ大名物企画は今年で最終回となることが事前に発表されていた。ゆえに今回は、過去にもVIVA LA J-ROCK ANTHEMSに参加したヴォーカリスト陣が招かれ、グランドフィナーレを作り上げた。

1曲目はBLUE ENCOUNTの田邊駿一を迎えての、“リライト”(ASIAN KUNG-FU GENERATION)。こうしてブルエン以外で聴くと、改めて田邊のロックのボーカリストとしての強さ、表現力を思い知らされた。「そんなもんじゃないだろう」と煽りながらも、終わった後「1番目で良かった」と言うほど、緊張していたそう。

続いては、UNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介による“若者のすべて”(フジファブリック)――熱心なビバラファンであればこの時点で気づいた人もいるのではないかと思うが、そう、今回のANTHEMSは「過去の名演を、今だからこそもう一度歌い鳴らす」集大成的なセットリストになっていた。田邊の“リライト”、斎藤による“若者のすべて”はどちらも2016年に一度、演奏されている。斎藤のハイトーンで美しいボーカルはこの曲に新たな息吹を吹き込んでいて、ユニゾンとフジファブリックの関係性も相まって、素晴らしい。斎藤の「続けてきたからもらえたご褒美みたいな5分間だった」と言う言葉が沁みた。

続いてはSHISHAMOの宮崎朝子による“カブトムシ”(aiko)。個人的にはこれが特に圧巻だった。2017年にこの曲を演奏した際は、1番丸々を宮崎の歌と、VIVA LA J-ROCK ANTHEMSのオリジナルメンバーであり、2020年に突如この世を去ってしまった津野米咲(赤い公園)による鍵盤のみというアレンジで披露したが、今回もその形を踏襲。伊澤が奏でる繊細なピアノの音色に乗った宮崎の歌唱が織りなす凄みに、とても深く引き込まれた。「このステージで歌ったことをきっかけに、もっともっとこの曲を好きになった」と言う宮崎の言葉に、夢のコラボ以上の、VIVA LA J-ROCK ANTHEMSの意義を感じた。

「僕たちだけが喋って登場」と賑やかに出てきたのはSKY-HIとたなか(Dios)の両名。宮崎と同じ2017年にこのタッグで登場(当時のたなかは、ぼくのりりっくのぼうよみ)したときのことを振り返り、「6年前は10代と、社長じゃなくただのミュージシャンでした」と語った二人が披露した“10年目の心のベストヒットメドレー”も、才能が爆発した有意義な時間であった。2017年と同じく、“今夜はブギーバック”に始まり、<その頃のぼくらと言ったら いつもこんな調子だった 心のベスト10 第一位は こんな曲だった>というフレーズを皮切りに、そこからメドレーへと突入していくという秀逸な構成。SKY-HIとたなか、双方の特性を活かしながら、“うっせえわ”(Ado)→“勝手にシンドバット(サザンオールスターズ)” →“アインデンティティ”(サカナクション)→“LOSER”(米津玄師)→“おしゃかしゃま”(RADWIMPS)、“Dragon Night”(SEKAI NO OWARI)→“そばかす”(JUDY AND MARY)→“楽園ベイベー”(RIP SLYME)と、時代を越えて次々に名曲が歌い紡がれていく時間。この曲ってこんなに良かったんだ、と改めて音楽と向き合えるのも、VIVA LA J-ROCK ANTHEMSの素晴らしいところだ。

続いて登場したのは、BiSHのアイナ・ジ・エンド。彼女はまず、こう言った。
「アンセムズに出会えなかったらできなかった今のアイナ・ジ・エンドはいなくて、米咲さんに出会えなかったら、できなかった曲がありました」
アイナは2018年にANTHEMSに初登場(椎名林檎の“本能”を歌唱)、その縁がきっかけで亀田誠治がアイナのソロ楽曲のプロデュースを手がけたり、津野のアドバイスによって生まれた楽曲もあったという。ANTHEMSへの2度目の登場となった2021年は、赤い公園の“Canvas”を歌い鳴らした。

その上での今年、彼女が歌ったのは、“Swallowtail Butterfly ~あいのうた~”。おそらくは津野への想いもこめて歌い上げたであろうアイナのあいのうたは、しなやかに、エモーショナルに天へと上っていった。

「アンセムはなくならない。一旦お休みして、たくましくなって帰ってくる」、「それでは最後の曲です。実は、VIVA LA J-ROCK ANTHEMSはこの曲で始まりました」という亀田の言の後、ラストはキュウソネコカミのヤマサキセイヤが登場。2015年のANTHEMS初回のオープニングソングであった“天体観測”(BUMP OF CHICKEN)を、ヤマサキもバンドも一体となって全身全霊で奏でていく。終盤ではヤマサキがフロアに降り、観客に支えられながら歌い上げ、まさにグランドフィナーレにふさわしい盛り上がりを見せた。

やはりVIVA LA J-ROCK ANTHEMSは他にはない魅力がある企画だな、と思うし、今回が最終回だと思うと少し寂しいが……またいつの日か、必ず戻ってくる事を願って。

この日、STAR STAGEのトリを務めたのはVaundy。1曲目“恋風邪にのせて”のイントロが流れた瞬間に歓声が上がる場内。オルタナティブと大衆性を両立させた2日目のラインナップを締めくくるに、彼の音楽はふさわしい。アリーナ全体を埋め尽くす大観衆から湧き上がるシンガロングに対し、Vaundyも「久しぶりだぜこの感じ」「絞っていきますよ」と観客を煽り、彼の音楽を中心にぐんぐんと会場の熱が上がっていく。

軽快なメロディーと切ないリリックの対比が見事な“そんなbitterな話”。「さあ、歌えるかい、踊れるかい」という呼びかけと共に放たれた“踊り子”。楽曲の良さのみならず、曲によって見事に歌声の表情も変えていく様はシンガーとしての表現力の高さを改めて感じさせたし、『チェンソーマン』の第1話EDテーマとなった“CHAINSAW BLOOD”のようなバイオレンスさを孕んだ曲で大きな盛り上がりを作った点にも、彼のアーティストとしての求心力の高さを感じさせた。

「今日長いなあ、と思ったけど、早い」とライブの終わりが近づいていることを告げると、会場からは「えーっ!」と言う声が。それを受けて、「また会いに来てくれるでしょ」と返すVaundyがいちいちカッコいい。今日、彼の音楽以外の立ち振る舞いに初めて触れた人も多かったのではないだろうか。

「さあ歌え!」という言葉と共に放たれたこの日のラストソングは、“怪獣の花唄”。音楽的な情報量の多さと、子供も口ずさめるポップさ。それが高い位置で結実したこの名曲で、VIVA LA ROCK 2023の2日目は幕を閉じた。

テキスト=佐久間トーボ
撮影=釘野孝宏