総括レポート
忘れかけていた感情が湧き立つ
CAVE STAGEが教えてくれた
本当の「音楽」の楽しみ方!
3日目を迎えたVIVA LA ROCK 2023。連日の夏日に驚きを隠せないが、本日のCAVE STAGEは、そんな夏日よりも暑い、いや、熱いものとなった。ステージを彩ったのは、フロアをいとも簡単に自分色に染めてしまう多種多彩な全7組のアーティストたち。ときにはライブハウスに表情を変え、ときにはクラブ、ときにはダンスフロアに表情を変えた圧巻の7ステージ。忘れかけていたフェスの醍醐味、そして私たちが求めていたあの多幸感溢れる情景、感情が確かにそこにはあった。
CAVE STAGEのトップバッターとして登場したのは、ソウルやR&B、HIPHOPなど多様なジャンルをJ-POPに落とし込み、若手バンドながら凄まじい勢いで成長を続ける、Ochunism。リハーサルの段階で「これってまだ本番じゃないよね?」と凪渡(Vo)が声をもらしてしまうほどの熱気に朝イチのステージということを忘れかけてしまったが、本番はその数倍の熱気が会場を包んでいた。メンバーの登場に自然と湧き上がる拍手。彼らの音楽性を遺憾なく発揮する“Mirror”からライブは幕を開け、「VIVA LA ROCK! 最高!」と1曲目からギアをトップに入れる凪渡(Vo)の煽りでオーディエンスは大きく飛び跳ねる。
「みんな早起きしてきたんでしょ! ほんまにありがとう!」と感謝の気持ちを伝えつつ、続けて“freefall”を演奏すると、間髪を入れず“Mongoose”へ。ここで彼らに抱いていた感情が確信へと変わる。そう、Ochunismは優れたライブバンド。ギターもベースもドラムもMPCも、どの音にも求心力がある。そしてその中心にはハイトーンで伸びやかなボーカルの存在がある。「まだまだ上げるで!」と“shinsou”へ突入。グルーヴィーなサウンドはオーディエンスを自然と波打たせていく。
MCでは昨年のビバラで感じたことについても触れ、「自分たちの音楽で人を救いたい」という熱い決意表明も口にした。「盛り上がる曲は最初にやってしまったので、次からはじっくりいい曲をやります」とスタートした“KODOU”、“rainy”、“光”とメロウな雰囲気を演出し、トップバッターの役目を見事に果たした。
次に登場したのは、多彩な音楽性を武器に耳だけでなく心にも響く音楽を私たちに届けてくれた新進気鋭の女性アーティストである4s4ki(あさき)。彼女のライブパフォーマンスは言葉で形容するのをためらうような不思議な魅力を放っていると思った。弾き語りからスタートした“I LOVE ME”を皮切りにどんどん彼女の世界に誘われる、ハマっていくそんな気分。一見すると小柄な女の子というイメージは“LOG OUT”のシャウトを聴いて払拭され、力強く伸びのある歌声を披露した“ring ring, you kill me”では、ステージを広く使い表現する彼女に惹かれてしまう。感情がグチャグチャになって来たところで、「人生でいちばん辛かったこと、これから起こるいちばん辛いことを考えてみて」と言うものだから、また心が動揺する。
「私に全部ぶつけていいから。オーラで伝えて、波動でね! 私が抱きしめるから」とスタートした“Paranoia”はどこか不穏な空気をまとわせたサウンド、そこにオーディエンスの負のオーラがプラスしているのだから、それはそれはどっしりと来る音像だったと思う。しかしなぜだろう、心が軽くなっていく錯覚に陥るのは。それはきっと、4s4kiがこの負の感情をしっかり音として昇華してくれているからだろう。「みんな思いっきり吐き出せた? ということは、今度は心がからっぽってことだよね? それを埋める曲を歌います」と始まった“escape from”。ピアノを弾き語る彼女の多彩さ、そして繊細な歌唱に心を奪われる。セットリストの妙とは言い表せない、この不思議な感情にどう名前をつけようか。彼女の魅力に心を惑わされたけれど、最後には多幸感を胸いっぱいに感じるのであった。
幽霊が今にも出てきそうなSEがフロアに流れると、お次に祭ばやしのような音色が流れ始める、そうこうしているとステージには黒子首の姿が。今年で2回目の出演となる黒子首は、堀胃あげはの求心力のある歌声と田中そい光の持ち前の明るさと的確なドラム、そしてみとの場を掌握するベースプレイをこれでもかとオーディエンスに見せつけていたと思う。メッセージ性の優れたシンガーソングライター:泣き虫☔をフィーチャリングに迎えた“やさしい怪物”からスタートしたステージ。堀胃の特徴的な声に誘われるようにCAVE STAGEには多くの人々が集まってくる。
黒子首の演奏からはどのバンドも食ってやるという気迫が伝わる。3人、そして脇を支えるサポート陣の奏でるサウンドは、優しさの中にエッジの効いた強い何かを感じるのだ。2曲目の“かくれん坊”を歌い終えるころにはステージはもう黒子首色一色に染まっていた。
MCで「5月病は大丈夫ですか?」と問いかける堀井。突拍子もない質問のように思えたが、そこには堀胃の思いが。「毎年バグり散らかす時期が来る。自分と向き合って掘り下げないといけない時期が来て、分からないことが増えていって、よからぬ方向に行きそうになったけど、皆さんのあたたかい言葉のおかげでここに立てています」とひと言。きっとこれからも彼女たちは自問自答して進んでいくのだろう。そうやって私たちの琴線に触れるサウンドを生み出すのだろう。“エンドレスロール”を丁寧に歌い上げ、黒子首のアンセムであるウォーアイニーな愛の歌“Champon”でこの日いちばんの盛り上がりを見せると、“青鬼ごっこ”では勢いそのままにハンドクラップが起こるフロア。そんな盛り上がりの中、田中そい光がせっかく声を出せるのだからと「VIVA LA ROCKでビバノンノン!」とオーディエンスと大合唱。彼の言葉を聞くと、自然と笑顔になってしまうな。うん、黒子首はこれでいい。明るいバンドの未来にはこのチャーミングさも重要なのだから。
CAVE STAGEも折り返しを迎え、ステージに登場したのは、ODD Foot Works。彼らもまた、フロアをODD色に染め上げ忘れかけていたあの興奮を思い出させてくれたバンドだったと思う。Taishi Satoの奏でるビートに乗せ、圧巻のフロウとボーカルをフロアに聴かせるPecori。そして、存在感のある有元キイチのギターと榎元駿のベース。1人でも欠けてしまったら今日のライブは成立しない、それほどの完成度の高さだったと思う。静かにステージに現れた4人はどこか不気味で。これから巻き起こる事象の夜明け前のような感覚。音が鳴り響くと、「始まった!」と心が高鳴るのが分かった。
1曲目の“I Love Ya Me!!!”から、合間合間で言葉は挟むものの、ほぼノンストップで演奏は続いていく。ここ数年でより強度を増したODD Foot Worksの音楽は、刃物のように鋭いときもあれば、私たちを包み込むような優しさもある。そんな音楽を聴けば自ずとオーディエンスは手を上げ、体を揺らし、飛び跳ねる。“逆さまの接吻”ではシンガロングも飛び出し、フロアのボルテージは熱を帯びていく。
“19Kids Heartbreak”や”Tokyo Invader”など彼らが歩んできた軌跡を辿るベスト版のようなセットリストをアグレッシヴにパフォーマンスしていく彼ら。SNSで宣言していた通り、今年初となる新曲“Love Is Money?”も披露し、2度目のVIVA LA ROCK のステージに幕を閉じた。PecoriはMCで「いつかは向こう(メインアリーナ)のステージでやりたい。それは来年かな!」と言っていたけれど、それは必ず叶う。そんな先の未来まで想像させてくれる至高かつオリジナリティに溢れたステージだった。
次に登場したのは、水曜日のカンパネラ。フロアはスタート前から多くの人が溢れている。驚いたのは年齢層の幅の広さ。世代も性別も様々なオーディエンスがフロアを埋め尽くし、キッズエリアも満席で、まだかまだかと開始の時間を待っている。呼び込みの音が鳴り響くと詩羽が走ってステージの中心へ登場。すると笑顔になるオーディエンス。狼の着ぐるみと一緒にポップに踊り歌う“赤ずきん”から会場のボルテージは最高潮だ。キッズエリアでは子どもたちが笑顔で体を揺らしている。もうこの姿を見ているだけで感情が高ぶり、泣きそうになってしまう。音楽っていいでしょ!とみんなに声を掛けたくなる。お父さんもお母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、男の子も女の子も、こんなに楽しそうに踊るダンスフロアがこれまであっただろうか。“ディアブロ”では、〈いい湯だね〉と大合唱。みんな銭湯に入っているような表情をしているのが本当に心地よい。ゆらゆらと体を揺らしながら詩羽の歌に酔いしれているフロア。ダンサーも登場し、これぞ水曜日のカンパネラ!というパフォーマンスは音楽だけでなく寸劇を楽しんでいるような錯覚にも陥る。
彼女の代名詞ともなった“エジソン”を元気たっぷり歌い終えると、直前のMCで話していた「最後まで一緒に」という言葉の強さを思い知る。そう、今日の彼女は1秒たりともオーディエンスの心を掴んで離さなかった。終始全体に目を配り、“一緒”にステージを作っていた。誰もが楽しめる素晴らしいステージだった。
興奮冷めやらぬフロア。次に現れたのは、マルシィだ。彼らは冷静にフロアの温度を自分たちのものにしていく。「消せない記憶と生きていく。あなたの記憶をうたうバンド、マルシィ。」というコンセプトを掲げ最近メキメキと頭角を表している彼ら。オレンジに包まれたステージで優しく語りかけるようにスタートした“幸せの花束を”を皮切り、彼らの等身大の言葉で紡ぎ出されたラブソングの数々がフロアに鳴り響く。奏でるサウンドに思いを馳せるようにオーディエンスも手を上げ、そのサウンドに寄り添う。自然と拍手が巻き起こるフロア。ステージの上には2020年代を背負って立つロックバンド。そうそう、この風景。この多幸感に溢れるステージが観たかったんだ。自然と声が漏れ、一緒に歌ってしまうこの感じ。「思っている数倍の人たちが歌ってくれて嬉しかった」と吉田右京(Vo&Gt)が話した。“未来図”はCAVE STAGEを包むアンセム。音楽の持っている力をこれでもかと感じることができた。
どんどんとボルテージが上がるフロア。レスポンスの数もどんどん増えていく。そんな中で演奏した“大丈夫”の、<忘れたくない幸せな時間をちゃんと噛み締めたい>というフレーズ。きっとこういうときに使う意味で書いたものではないのだろうけど、この幸せな時間は忘れたくないなと思う。噛み締めて何度も思い出したい。そんな光景がいま目の前に広がっているのだ。ラストの“最低最悪”までマルシィの色に染め上げたステージ。オーディエンスが飛び跳ねた余韻がライブの後もずっと残っている。そんな感じがした。
CAVE STAGE3日目のトリを飾ったのは、「世界中の毎日をおどらせる」をテーマに掲げるバンドであるLucky Kilimanjaro。熊木幸丸の「踊る準備はできていますか?」という言葉からスタートしたステージは、1曲目の“エモめの夏”からダンスフロアのような様相を呈していた。縦ノリ、横ノリなんでもあり。「自由に歌って踊ってください!」と熊木の声に乗せられ、自由に踊りまくるオーディエンス。まるで彼らが主催したパーティーに招待されたような空間で、代表曲である”Burning Friday Night”、”太陽”など続けざまに演奏するLucky Kilimanjaro。まさに「ブチアゲ!」という言葉がピッタリなライブだ。そんな楽しげなステージにオーディエンスのダンスも勢いが増して、地響きが起こりそうなフロア。そんな状況でも熊木が「踊りは自由です」と言うものだからもっと乗ってしまうオーディエンスたち。でもこれが健全なフェスなんだと思った。コール・アンド・レスポンスもシンガロングもダンスも、すべて自分が思うままに表現すればいいのだから。最初は恥ずかしそうにしていた人も、曲を追うごとに自分を解放して踊っていく姿が印象的だった。“350ml Galaxy”で熊木がジョッキを持ち乾杯するころには、踊ってない人間はこのフロアにはいなかったと思う。むしろ逆に、踊ってないほうが恥ずかしくなってしまう。それほどLucky Kilimanjaroが奏でる音楽には人々を踊らせる麻薬的な魅力があるのだ。
終演までの40分間、1秒たりとも音が止まることなく、これでもかと「おどる」ことの楽しさを見せつけたLucky Kilimanjaro。最後には「ビバラ10回目、おめでとう!」叫び、“⼀筋差す”でライブを閉じた。
多種多彩なアーティストが自らの「音楽」をこれでもかと表現し合った3日目のCAVE STAGE。この多幸感溢れる空間を体験できたことを誇りに思ってもいいと思う。「音楽」の純粋な楽しみ方を思い出せた、非常に優れたパフォーマンスの数々だった。
テキスト=笹谷淳介
撮影=ハタサトシ