VIVA LA ROCK 2023

総括レポート

別れと、新たな始まりと
それぞれのストーリーが交錯した
濃密で感動的な一日

STAR STAGE3日目のトップバッターを務めるのは、前日にUNISON SQUARE GARDENで同じステージに立っている斎藤宏介と、ベーシスト須藤優によるXIIX。ドラムとキーボードのサポート(ドラムはARDBECK時代からの須藤の盟友で、米津玄師のサポートもともに務める堀正輝)を含むメンバー4人が登場すると、ライブは“Answer5”からスタート。XIIXはまだライブの回数がそんなに多くなかった2021年にもビバラに出演しているが、中盤でギターとベースの掛け合いから斎藤がソロを弾き倒す流れなどからは、すっかりライブバンドとしてのグルーヴが身に付いた印象だ。

“LIFE IS MUSIC!!!!!”では須藤がステージを左右に動いてフロアに手拍子を求め、“おもちゃの街”ではシンベとエレベを使い分けてトラック的な音像を作り、メリーゴーランドの映像をバックに斎藤が美しいメロディーを歌い上げる。7月に新しいアルバムが出ることを伝え、“アカシ”では斎藤がらしさ全開のハイトーンを響かせると、須藤のファンキーなベースラインが耳に残る“No More”は間奏で2人が向き合って演奏。もう一曲新作から披露された“あれ”は須藤のスラップベースと斎藤のラップ調のボーカルがご機嫌なミクスチャー的パーティーチューンで、特効の炎も相まってかなりの盛り上がり。間違いなくライブでの新たな定番曲になるだろう。

斎藤がギターを置き、艶やかなピアノに導かれて始まったのはXIIXの新たな魅力を開拓したメロウなミドルチューン“スプレー”。音源で東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦とともにゲスト参加しているSKY-HIのラップパートも斎藤が担当し、巧みなフロウを聴かせると、ラストは“ユースレス・シンフォニー”で大合唱が起こり、再び斎藤と須藤が向き合って音を合わせてライブが終了。キャリアを重ね、確かな技術と経験を持ち合わせた2人がそれでも形を変えながら熱量を燃やし続けるXIIX。その充実した現在地が見えるライブだった。

STAR STAGE2組目には、ビバラ2年目の2015年からコンスタントに出演をしている常連組のindigo la Endが登場。スクリーンにバンドのロゴが大きく映し出され、Disclosureのエレクトロハウスに合わせて手拍子が起こる中でメンバーが登場すると、ライブは“夜明けの街でサヨナラを”からスタート。インディゴ前期を代表するアッパーチューンにフロアも大歓声で応え、サビでは一斉に手が上がっている。間奏ではえつことささみおによるコーラスが広い場内に響き渡り、バンドの演奏もさらに熱を帯びると、ピアノ基調のイントロダクションから“想いきり”へ。歌謡曲的なメロディーラインをソリッドなバンドサウンドに乗せる手法は実にインディゴらしい。

TikTokをはじめ各種チャートでかなりの好リアクションを記録している“名前は片想い”は、半音進行のストレンジなリフと巧みな転調、抜群にキャッチーなサビメロの一方、歌詞は痛切な心情を綴ったもので、新たなインディゴ的スタンダードとも言うべき一曲だ。この10年間独自の美学を持ってスタンドアローンを貫きつつ、決して停滞することなく自己ベストを更新し続けるindigo la Endというバンドの特異性は、ここに来て益々際立っていると言えるだろう。

「ビバラはずっと出させていただいてまして、今回10回目おめでとうございます。やっぱり屋内はいいね。僕らフェスで浮くタイプなんですけど、今日はにしなからインディゴみたいないい空気感で、オラオラしてないし、KEYTALKもキュウソもいないから裏でも平和です。楽屋は隣が時雨のいいお兄さんたちだし」と川谷絵音が笑いながら話すと、続いては4月にリリースされたばかりの最新曲“瞳のアドリブ”を披露。サビ前にハッとするブレイクを織り込みつつ、ストレートなビートとキャッチーなサビで聴かせるストロングスタイルはバンドの好調なムードの表れか。

川谷がギターを置き、キラキラと光るミラーボールの下で始まった“夏夜のマジック”では、2番のAメロで川谷と後鳥亮介が向き合うお馴染みのシーンもフェスで見るとまた新鮮。長田カーティスのギターソロから、川谷が「ビバラロック、踊りませんか?」と呼びかけると一斉に手が上がり、オーディエンスは思い思いに体を揺らす。そんなロマンティックなムードからは一転、「最後にノイズをぶちまけて帰ります」と言って披露されたの“晩生”では、佐藤栄太郎がスタンディングでスネアをぶっ叩いたのを皮切りに、予告通りシューゲイザー的なアプローチで延々轟音をかき鳴らし(3分くらいずっと)、フィードバックノイズが鳴り響く中でライブが終了。絶好調だなあ。

STAR SATGE3組目は、ヘッドライナーを務めた2021年以来のビバラ出演となるORANGE RANGEが登場。“上海ハニー”のリミックスをSEにメンバーが登場すると、10回目のVIVA LA ROCKの1曲目はやっぱりこの曲“ビバ★ロック”! 早速の大合唱を作り出して笑顔が溢れるこのステージ、やっぱりORANGE RANGEのライブは声を出さないとね。

「これだけたくさんの人がいると、それぞれお目当てのアーティストがいると思うけど、この時間はひとつに繋がってほしいんだけど大丈夫かな? 心をひとつにしてくれますか? 行ける?」というRYOの問いかけにオーディエンスが大声援で応えると、始まったのは“以心電信”。もはやリアルタイム世代の方が少ないだろうに、簡単にその場をひとつにしてしまうのはやはり国民的バンドのヒット曲のすごさ。「NO SUSHI NO LIFE!」のコール&レスポンスからの“SUSHI食べたい feat.ソイソース”ではYAMATOの高音をフィーチャーし、3MCの声色の違いを生かしたマイクリレーやリズム隊のタイトなビートが確かな音楽的地力を感じさせつつも、結局「楽しい!」が勝つのが、ORANGE RANGEのORANGE RANGEたるゆえんだろう。

「こういう場所があるからアーティストは頑張れます。ひとつのことを続けるのは大変だけど、コロナ禍でもフェスを続けてきたからこの景色があるんだと思います。僕らはお祭り騒ぎをすることが一番の恩返し、正解じゃないかと思ってる」という言葉に声援が上がり、「外はすごい晴れてました。こうなったら会場の中も沖縄モードに、夏モードにしようかね」と言って始まった“上海ハニー”で場内の温度はさらに上昇。「いやーさーさー!」のかけ声とYAMATOの指笛とともにかちゃーしーを踊ると、7年ぶりのソイソースソングである“Pantyna feat.ソイソース”ではラティーナなリズムに乗って会場中がタオルを回し、壮観な光景が広がって行く。パンティを題材にしたこの曲で感じられる変わることのない悪ガキ感もなんだか嬉しい。

沖縄モード・夏モードによって場内の温度はさらに上昇を続け、“イケナイ太陽”でもう一度大合唱を巻き起こすと、「ビバラロックに恩返し、ラストの曲」と言って、最後は“キリキリマイ”でハードコア魂を爆発させてステージが終了。きっと、いや間違いなく、今夜は熱帯夜。

ORANGE RANGE〜Creepy Nutsのいかにもフェスらしいお祭り騒ぎですっかり温まっているSTAR STAGEに立ったのは、今年で6年連続(2020年のオンラインのみ開催も含む)のビバラ出演となるSaucy Dog。リハーサルで演奏された“Be yourself”ですでに合唱が起こり、場内の期待値がかなり高まった中、改めてメンバーがステージに登場して拳を合わせると、1曲目に披露されたのはいきなりの“シンデレラボーイ”! 昨年末の紅白でも披露された現時点での代表曲であり、石原慎也の歌声にせとゆいかと秋澤和貴の声も重なって、さいたまスーパーアリーナの広い空間に響き渡る。

「楽しんでいこうぜ! やれんのビバラー!」と呼びかけての“雀ノ欠伸”で場内に手拍子が広がると、石原は丸印を作ってそれに応え、「今日は精いっぱい歌を届けにきました。よろしくねー!」と叫ぶ。せとが「いいですね、みんなが声を出せるフェスが戻ってきて。学校行ってる人も働いてる人も、つかの間のお休みやけど、みんなで一緒に楽しみましょう」と話すと、石原が「俺たちバンドマンの歌、よろしく」と言って披露された“メトロノウム”では<僕らは旅をする 迷いながら 戸惑いながらも進む>と歌い、アグッレシブな演奏を聴かせた。

再び場内が手拍子に包まれ、秋澤のソロから始まった“雷に打たれて”でそのテンションがさらに加速して行くと、間奏で石原が勢い余ってフロアに落ちてしまい(とはいえ、とても綺麗に着地してことなきを得た)、次の歌までに戻り切れなかったのを秋澤がカバーする場面も。「大切なことを疑ってしまうときもあるけど、前に進むために立ち止まったっていい、そんなことを歌った曲」と言って披露された“現在を生きるのだ。”では、この日秋澤が着ていたTシャツのバンド、Oasisのライブのような大合唱が起こり、「I need to be myself」のメッセージはしっかりオーディエンスに伝わっていたはずだ。

「最近は好き勝手やらせてもらってます。これからもどうぞよろしく」と挨拶をして、石原のギターから始まったのは最新曲“怪物たちよ”。現在のSaucy Dogからの切実なメッセージソングと言えるであろうこの曲を真摯に歌い上げると、「周りの意見に流されちゃダメだよ。ちょっとでも受け取ってくれたら嬉しいな」「学校頑張ってる人、仕事頑張ってる人、みんなで一緒に歌おう!」と最後までオーディエンスに語りかけ続け、“優しさに溢れた世界で”でライブが終了。ただ無邪気に音と戯れるだけではない、メッセンジャーとしてのすごみを感じさせるような、過去一エモーショナルなライブだった。

6月29日に行われる東京ドーム公演での解散が発表されているBiSHにとって、この日が最後のVIVA LA ROCK出演。開演時刻を迎えてメンバーがステージに登場し、1曲目の“BiSH-星が瞬く夜に-”がスタートすると大歓声とともに一斉にサイリウムが振られ、場内の空気が一変。解散を前に清掃員も大勢駆けつけているようで、さながらワンマンライブのような雰囲気が生まれていく。もちろん、彼女たちのライブは初見でもグイグイと引き込んで行く魅力があり、ラウドな演奏でステージとフロア双方のテンションが爆発した“GiANT KiLLERS”ではオーディエンスが一斉にジャンプをし、アイナ・ジ・エンドとリンリンが一緒にシャウトを決めると、ハシヤスメ・アツコの「今日は全員馬鹿になろうぜ!」という呼びかけから始まった“ZENSHiN ZENREi”では、メロコアな曲調に乗せてキャッチーなメロディーを合唱。華やかで、ポップで、キュートで、それ以上にロックでパンクな、これぞBiSHのステージ。

セントチヒロ・チッチが「VIVA LA ROCKは今年10回目、おめでとうございます!」と挨拶をすると、昨日出演した「VIVA LA J-ROCK ANTHEMS」の感想を求められたアイナは「私は最多の3回出演してるんですけど、アンセムズに出会わなければこんな風にロックが好きになれたかわからない、それくらい自分にとって本当に本当に大切な場所です。今日ここにいてくれて本当にありがとうございます」とフェスへの想いを語り、「今から歌う曲はとってもとっても大切な曲です」と話して“オーケストラ”を披露。美しいメロディーと演劇的な要素もある振り付けが融合した名曲で、空を指差す姿はとても絵になる。

続いて披露されたのは3月にリリースされた“Bye-Bye Show”。THE YELLOW MONKEYの吉井和哉が作詞作曲を担当し、録音にはバンドメンバーも参加したこの曲は、タイトル通りにイエモンの“LOVE LOVE SHOW”のオマージュ的な一曲。言わずと知れたこの国のロックレジェンドのひとつであるイエモンとBiSHの邂逅もまた事件である。メンバーぞれぞれの歌の個性もしっかり伝わる曲だが、特にアユニ・Dの歌う<ほら あんなに小さなiが大きくなった>は名フレーズだ。

「BiSHは最初VIVA LA ROCK主催の鹿野さんに認めてもらえなくて、呼んでもらえなくて、それが悔しくて、絶対見返してやると思ってやってきました。そしてやっとBiSHが呼んでもらえて、やっと認めてもらえたのは最高の瞬間でした。だからBiSHにとってこのフェスはとても大事なもので、あなた方一人ひとりがBiSHがこの場所にいたことの証明です。この場所にいてくれて本当にありがとうございます」というチッチの言葉には思わずグッと来たが、かと思えば、その後にハシヤスメが話し始めると変な間ができて笑いが起こるのもBiSHらしさ。「いろんな想いが詰まったビバラ。最後だからこそみんなで拳上げて行きたいんですけど、みなさん行けますか?」と呼びかけて、さらにモモコグミカンパニーが「ついてきてください!」と話すと“サラバかな”でフロアから一斉に拳が突き上げられ、“beautifulさ”で一斉にジャンプ。最後まで熱狂的な大盛り上がりの中、BiSHのVIVA LA ROCKラストステージが締め括られた。

VIVA LA ROCK3日目のヘッドライナーを務めるのは2年連続のsumika。“ピカソからの宅急便”をSEに手拍子の中メンバーが登場すると、「ただいま、戻りました。sumika始めます!」という挨拶から“フィクション”でライブがスタート。片岡健太は会場中を見渡しながら歌を紡ぎ、荒井智之は軽快なリズムを叩き出し、小川貴之は流麗なピアノを奏で、ポップで華やかなsumikaワールドが広がって行く。“ソーダ”ではジャンプをする片岡とともにオーディエンスもピョンピョン飛び跳ね、ステージ前方に出た小川の煽りにクラップが広がり、片岡が思わず「楽しいな」とつぶやく場面も。<火を灯せ>の歌詞に合わせて特効の炎が上がった“絶叫セレナーデ”に続いては、「俺たち最後だからさすがに朝から来てた人たちは疲れてちゃってる?なんかみんないまいち心のギア入ってない?こんなときのとっておきの呪文、あれなんだったっけ?」という振りからの“ふっかつのじゅもん”で場内がダンス空間になり、片岡がギターソロを弾く場面も見られた。

「すごい悲しいことがあって、落ち込むところまで落ち込んで、なんの活力も湧かない時間があったけど、引き上げてくれたのは人の力でした。俺はそれでも音楽が好きで、バンドが好きで、sumikaが好きだって、去年よりもそう強く思ってます! 最後までよろしく!」という片岡の力強い言葉に盛大な拍手が贈られると、“Porter”ではスカのリズムに乗って一斉に手を振り、荒井の力強いドラムで始まった“イコール”から、ソウル〜AOR風味の“Travelng”では片岡がハンドマイクでステージを左右に動き回りながら横揺れのリズムで体を揺らす。重厚な演奏と歌がこの日披露された楽曲の中でも特に素晴らしかった“透明”では、片岡と黒田隼之介が共作した歌詞がスクリーンに映し出され、繰り返される<愛している>という言葉が胸に迫ってくる。

「ビバラ10回目、僕らも今年結成10周年です。続けてる人ってだんだん褒められなくなるけど、俺はよくないと思う。続けてるだけじゃ意味ないよなんて言うしょうもないやつがいるけど、僕は1ミリもそう思いません。みんなが大事にしてることも、それが続けば続くほどかっこいいし、尊いし。俺たちもバンドを大事にしていきたいし、ビバラも5年後10年後当たり前のように続いて、それを奇跡みたいだと言わせてください」と力強く語り、「そのためにも、あと少しだけ音楽を鳴らしていいですか?」と話して始まったのは“ファンファーレ”。<夜を越えて 闇を抜けて 迎えにゆこう>。メンバー3人がこの歌詞を歌いながらの熱演にはなんともグッとくるものがある。

ラストは“Shake & Shake”の大合唱でもう一度幸福な空間を作り出して大団円。それでも鳴り止まない拍手に応えてもう一度メンバーが登場すると、「今までのビバラのいつよりもどでかい歌声聴きたいんですけど、あなたのこと信じていいですか?」と呼びかけて、“Lovers”を演奏。最後に大量の銀テープが舞い、片岡は「それでもやっぱり俺は人が好きです! 出会えてよかった! 一緒に生きていこう! VIVA LA ROCKありがとう!」という言葉を残してステージを降りた。別れの後に来る、新たな始まりの音。人間の強い生命力を感じさせる感動的なライブだった。

テキスト=金子厚武
撮影=釘野孝宏