
総括レポート
戻って来たロックの遊び場。
ここで止まるのではなく、
未来への期待を感じた最終日
初の5日間開催となった今年のVIVA LA ROCKもこの日で最終日。どの日もトップバッターのアクトの前にプロデューサーの鹿野によるメッセージと諸注意があるのだが、この日、鹿野の口からなんと激しいアクトが多かった昨日においても怪我人はゼロだったということが明かされた。
今年のVIVA LA ROCKはコロナ禍前と同じように「行動制限なし」、つまりダイブやモッシュは自主性に任されているが、ケガをしない、させないという事をもう一度、参加者に伝える。そう、そのことをもう一度改めて伝えたくなるくらい、この日のアクトも激しいライブが予想されるラインナップだからだ。
ステージにあるミラーボールが輝き出した瞬間にこの空間はthe telephonesのものに。STAR STAGEのトップバッターはthe telephones。VIVA STAGEのトップバッター四星球がガンガンにあたためた観客を、また異なったアプローチで盛り上げた。1曲目“Monkey Discooooooo”から踊りまくるオーディエンスたち。VIVA LA ROCKの5日間、様々な瞬間で制限のないフェスであることを実感することがあったが、the telephonesのライブで、さらにそれを実感した。歌う者もいれば、踊る者もいる。ただただ素晴らしいダンスミュージックが流れ、それをみんなが想い想いに楽しむ。
岡本伸明(Syn&Cowbell&Shriek)は前の観客に向けて、そんなもんかよ?みたいな顔でもっと盛り上がるように煽り、石毛輝(Vo&Gt&Syn)はブリッジしてギターを弾き鳴らす。“Baby, Baby, Baby”では、岡本が客席に下りてアリーナ中を走り回り、前方でもまだハジけ切れていないお客さんに向け、ガンガン煽る煽る。最後、FOH(PAや照明などのスタッフがいる場所)あたりからお客さん数人に担がれた状態で、前方エリアを突っ切ってステージに戻ってくるのを見て「あのパターンは見た事なかったな、ノブさん神輿だ」と石毛が話すのもおかしい。
毎回出演のたびに丁寧に伝えているが、埼玉県北浦和出身で、石毛はこのフェスのジングルも担当しているthe telephones。「埼玉県にフェスがあったらいいな、と待ち焦がれていたら鹿野さんが作ってくれた」という言葉から「埼玉の曲を埼玉でやります!」と幻想的な“SAITAMA DANCE MIRROR BALLERS!!!”を披露。ロックとダンスで踊らせる、ということでも、これだけの幅を持たせられるのがこのバンドの凄みだ。
炎が噴き出る特効にメンバー自身が驚いていた“I Hate DISCOOOOOOO!!!”から“Urban Disco”、“Love&DISCO”とディスコ3連発! 午前中からフロアをディスコに……という書き方は常套句過ぎて少し気が引けるが、でも書きたくなる。彼らのデビュー初期を知らない世代のオーディエンスもDISCO!!!に合わせて腕を振り上げているのは、とても幸せな光景だった。
続いてはACIDMAN。オープニングSEとして彼ら自身のインスト曲、“最後の国(Introduction)”が流れ、一気に彼らの色に会場を染めていく。その上で、1曲目“世界が終わる夜”のイントロが流れた瞬間、歓声ののち、目の前の光景を焼き付けようとするオーディエンス。モニターにリリックが流れたのも相まって、これだけリアルな演奏を目の当たりにすると、その気持ちがよく分かる。曲の最後の<また此処で笑い合おう>という歌詞と、アウトロで3人の演奏が盛り上がっていくのもグッと来る。
VIVA LA ROCK10回目を受けて、ACIDMANが昨年25周年、メジャーデビュー20周年だったと語る大木。アルバム『Loop』の再現ツアーをこの後に行うことも含め、長く続けるのは良いことだと語りつつ、「でも悲しいこと、辛いこともある」と続け、ACIDMANも2曲ピアノを弾いてもらったという坂本龍一が亡くなったことに触れた。大木は「いつかは来ると思ってたけど、悲しい」と明かしたが、「音楽は死なない、作品は死なない」という言葉を残し、坂本が弾いた中から“風老い人(前編)”を披露。あわせてMVがモニターに映され、オーディエンスは視覚と聴覚、両面でその想いを受け止める。拳を振り上げ声を上げるだけが盛り上がると言うことではない。静かに、心の中で燃え上がらせる感動も存在する。それを体現したような演奏。常に人間が生きること、愛を伝えることに向き合い続けた彼らだからこそ、沁みる。
「最後の最後まで、命を全うして」と大木は客席に語りかけていたが、この日の彼らのステージを見れば、それは自ずとわかってくるだろう。“夜のために”を聴いて、コロナ禍でのライブ、フェスを乗り越えて生きてきたことを重ね合わせ、感動していた人は僕以外にもいたと思う。盛り上げる、という印象の残し方もあると思うが、ブレずに、自分たちの音楽を真摯に伝える事で印象に残したのがこの日のACIDMANだった。
04 Limited SazabysはSEからいきなりの“monolith”、“fiction”、“Finder”というキラーチューン3連発。GENの歌声も伸びやかで、改めてフォーリミがライブバンドだということに気付かされる。メンバーもキラーチューン連打で狂喜乱舞する観客の盛り上がりに演奏で応えているようだった。
そして4曲目にはトリビュートで披露したDragon Ashの“crush the window”を披露、しかもKj本人が登場して一緒に歌い鳴らすという贅沢なコラボだ。とはいえ、あんなライブモンスターを相手に一歩も引かないライブを見せるのが、今のフォーリミ。メンバー全員でKjと楽曲を食ってやろうという気概が見えて、心なしかKjも嬉しそうにステージを縦横無尽に駆け回っているように見えた。
GENが、コロナ禍での制限が解け今の現状になったことに対して良かったという旨を語るとともに放った「ロックの汚名を返上しましょう」という言葉は、この並びで若いながらもフェスを主催している彼らだからこそ出てきた言葉だと思うし、それを受けての“Every”、“Keep going”はさらに説得力を増したように感じた。
途中MCで「俺ら、VIVA!とSTARの中でも一番若手じゃない?」と気づき、「まだまだ先は長い。先陣の先輩がまだまだカッコいいから追い続けたい」とGENは語っていたが、すでに彼らの後ろ姿を追っているバンドもたくさんいることに、観ている側は気づいていたはずだ。バンドには格があると思うが、04 Limited Sazabysの持つ格は、先輩への敬意、後輩への姿勢が作り上げているのだと気づく。
「社会を変えることができなくても、社会に変えられることがないようにこれからも音楽を続けていきたい」という言葉の後に披露されたこの日の“Terminal”が、楽曲が持っていた力以上のメッセージを放つ。外はあいにくの雨模様だったが、ラストの“Squall”はそのおかげでいいムードで締まったステージであった。
そしてBRAHMAN。登場SEとともに、モニターに映像が映し出される。そこには「暗影演舞」の文字。これは彼らが近年行っているライブの演出で、演奏だけではない、様々な趣向を凝らしたライブが行われることを予感させる。
1曲目“FOR ONE'S LIFE”からとんでもない圧を感じるアクト。ステージ上で空中を殴り続けるTOSHI-LOWに呼応するようなインタラクティブなモニターの画像が、ライブにさらに臨場感を与えている。「昨日より高く跳べ」という言葉に触発されたか、いや、触発されなくても、BRAHMANが表現する音楽の世界に負けじと、ここで音を浴びている喜ぶを全身で表現するオーディエンス。前の方も後ろの方も関係ない。全員が等しく至近距離でBRAHMANの音を食らっているような感覚が気持ちいい。
“BASIS”では能動的に観客からオイ!オイ!の声が。ここでまた、声出しができるライブ、声出しができるフェスの幸せを感じる。どの曲も魂、感情を呼び起こされたが、“ANSWER FOR...”は個人的にグッときた。この曲を毎回ライブで聴くたびに、初めてBRAHMANの1stアルバムを聴いた瞬間が蘇ってくるのだけど、この日は特に心に迫ってくる。歌詞がモニターに出ていたのも、その出方がとてもカッコよかったのもあったかもしれないが、いつも説明なしにスッと入ってくる言葉が、この日のステージではもっと自然に入ってくるような感覚があった。特に曲中の<孤、そして強く>という歌詞からは、音楽を好きでい続けた自分の人生を肯定されたような気持ちがあった。
フォーリミに続き、彼らもトリビュートで参加したDragon Ashの“few lights till night”を披露。もちろんここでもKjが登場。2人のステージ上での振る舞いは、単純にいいものを見れたなというプレミア感の強い、素晴らしい競演だったが、Kjがステージを去った後、「まさか長崎の海に投げ捨てたやつと一緒に歌うことになるとは……」と話すTOSHI-LOWが面白い。ただ、その後に続けて「こういうことを言うと、中学の時の自分に見せたいって言う奴いるけど、大人になったお前に歌ってるんだよ」と言う言葉にハッとする。そう、過去は過去なのだ。さっきの“ANSWER FOR...”もいつも初めて聴いた時みたいな感動がある、と思っていたけど、BRAHMANが今も現在進行形で前進し続けているから、こちらは感動することができるんだ。
ラストは“真善美”。「先にいっちゃった仲間に、俺がいった時に今日の出来事を土産話にする」という言葉を受けてのこの曲は真に迫ってきたし、最後カットアウトで終わる演出も、後頭部をガツンと殴られたような凄まじいものだった。こんだけ書いて全くその感動に追いついていないのが悔しいが、とにかく、この日BRAHMANを見た事を自慢できるステージだった。
続いてはHEY-SMITHが登場。姿を現す前から、これから始まるステージに期待が高まっているオーディエンスの熱気がバキバキに伝わってくるが、真っ赤な照明の中、高らかにトランペットが鳴り響き始まったステージは、その期待を大きく更新していくライブだった。
初っ端から“Dandadan”、“2nd Youth”、“Don't Worry My Friend”と盛り上がるにはこの上ない選曲。“2nd Youth”も“We sing our song”も合唱が起きるのが気持ちいい。
HEY-SMITHも自分たちのフェスを主催しているバンドだが、こうして他のフェスに出た時はいい意味で羽を伸ばしているというか、タガを外してこちらをぶち抜いて来ているように思える。猪狩秀平(Gt&Vo)の「こんな場所を作ってくれてありがとうございます」というMCには、コロナ禍で開催された2021年のビバラ出演時、メディアの偏向報道に怒っていた彼の姿を思い出す。こういうモッシュやダイブが自然と起こり、全員が他者を尊重してありのままでライブを楽しめる場所を、アーティスト主催のイベントではなく、いわゆる「大人」と言われる立場の人間達が作ることの意義を語っていたが、自分達自身でも行動に移し続けている猪狩だからこそ、ロックカルチャーへの強い愛が伝わってくる。
サークルモッシュやヘドバンが起こる“Goodbye To Say Hello”、“Drug Free Japan”はこの日一番会場が揺れた瞬間のひとつ。5日間様々なバンドが出演したが、バンド編成も含めて、やはりHEY-SMITHというバンドがかけがえのない存在なのだと確信した。
そして、5日間の大トリは10-FEET。タオルを掲げて待つオーディエンスにSEの“そして伝説へ…”が響く。「行けるかお前ら! どれくらい行けるか見せてもらおか」と1曲目は“goes on”からスタート――と思いきや、一度止めて「お前らがどんな悪い奴らか知ってるぞ」と煽る。その前の盛り上がりも相当だったが、この煽りを受けてもっと盛り上がるオーディエンスに対し、今日の体力を使い果たさせようとする勢いでぶち上げまくる10-FEET。“VIBES BY VIBES”、“アンテナラスト”と息をつかせぬキラーチューンを披露。TAKUMAは「俺らはやるよりリスナー歴の方が長い。ライブもやるより見る方が先」と音楽をリスナーとしても愛し続けた1人として、ライブのあり方について触れる。最後は「付き合い続けていくしかない」と言うが、この実直さが彼らの音楽にそのまま結びついているように感じる。
明日から仕事の人も多いだろう。5日目のトリ、というのも言葉にすると容易いが、責任は大きい。でも、メンバーもオーディエンスも一切そんな事を感じさせないライブ。ただただ、目の前に素晴らしい音楽があるから、想い想いにノッて、ダイブしてサークルモッシュして、危ない奴はちょっと後ろに下がって手を挙げて、そんな数年前の当たり前の光景が戻ってきたのにグッとくる。
歌詞を荒川、入間川に変えて歌われた“RIVER”や、この日一番場内で挙がった手が多かったのではないか、と言う“その向こうへ”など、個人的なハイライトはたくさんあったが、見た人によってこの日の10-FEETの良かった所は人それぞれ違うだろう。そんなライブ、いいに決まってる。「言葉で伝えられないから音楽で伝えている、それがロックな気がするから」とTAKUMAはサラッといっていたが、この日のオーディエンスには、確かに、言葉で伝えなくても、音楽で伝わっていたように思う。
“第ゼロ感”を披露した後の「スラムダンクの曲聴いたからって移動すると、爆発するシステムになってます」という言葉には笑ったが、盛り上がりという意味ではずっと爆発しっぱなし。「この後あまり決めてないんですが、時間までできるだけやります」というMCの後、大合唱が起こった“蜃気楼”、前方が特に凄い盛り上がりだった“ヒトリセカイ”を経て、ラストは“CHERRY BLOSSOM”。「最後まで助け合えよ!」と言う叫びに呼応するようにオーディエンスのタオルが映える。終盤、頭上から無数の風船が落ち、5日間にわたるVIVA LA ROCKは幕を閉じた――と思いきや、まだ少しだけ持ち時間があるということで“RIVER”のショートverを放ち、大団円を迎えた。
今回、5日間全て参加させてもらって感じたのは、やはり、ここ数年厳守しなければいけなかった数々のルールが取り払われたフェスが戻ってきたな、ということ。出演者によって、様々に考えはあるかもしれない。でも多くの出演者が語っていたのは「戻ってきた」、そして「ここからまた新しく作っていく」という言葉。演者もオーディエンスも、心のどこかでブレーキをかけていたのかもしれない(そのおかげでライブ、フェスという文化が生き残ったのだけど)3年間を乗り越えて、このビバラが掴んだ幸福な景色。ステージからオーディエンスの表情が見える、目一杯楽しんでいるのが見えることが、どれだけアーティストにとって嬉しいことか、そしてそれは確実にライブに反映されるものなのだということが、この5日間でよくわかった。本当に素晴らしい5日間であり、空間であった。
テキスト=佐久間トーボ
撮影=釘野孝宏