VIVA LA ROCK 2024

総括レポート

10+1年目のSTAR STAGE
新たな一歩を、踏み出した
歴史に残る4日間の幕開け

この日、STAR STAGEのトップバッターを飾ったのは、Chilli Beans.。清涼なギターサウンドで、春風のように駆け抜けていく“aaa”をプレイ。古くはNirvana、最近で言えばboygeniusのような「時代のスタイル」を産み出してきたレジェンダリーなバンドをも彷彿とさせる、3人の飄々としていながらも説得力に満ちたプレゼンスが眩しい。

スタイリッシュな出たちとは裏腹な……否、スタイルがあるからこそ骨太な彼女たちのグルーヴの真価はライヴでこそ伝わってくる。青い髪を揺らしつつLily(Gt&Vo)が奏でるファンキーなカッティングがフロアを揺らす“rose feat. Vaundy”。フェスならではの祝祭感に満ちた光景が広がった“Welcome”。<楽しもうよここは my turn/いつでも変わらない場所>というリリックが、VIVA LA ROCKという普遍的でかつスペシャルな、この場所を寿いでいるかのように思えた。

4曲目の“doll”から、陽のグルーヴから陰のグルーヴへとモードが切り替わる。Maika(Ba&Vo)のヘビーなベースがブルージーな“105”、ビッグなリズムが最高に気持ちいいミドル・ナンバー“Raise”を立て続けに披露し、STAR STAGEを低温(音)じっくり直火焼で熱くしていく。

<好きじゃないよ 君なんて>と嘯きながらも「君」に報われない恋をし続ける、甘酸っぱい想いを描いた“lemonade”をキュートに歌い上げる、Moto(Vo)。サングラスで目元を隠しても、彼女の雄弁な歌声や佇まいが楽曲ごとのストーリーやエモーションを如実に体現する。ステージの上でMotoは、歌を「生きている」のだ。

ラストスパート。再び、サウンドはダンサブルな四つ打ちに戻り、“シェキララ”でオーディエンスは我を忘れて踊り出す。間奏部では、LilyとMaikaが向かい合いながら演奏。彼女たちのバンド名の由来でもあるRed Hot Chili Peppersのパフォーマンスを思い起こさせる。最後に披露されたのは「君と私」の歌、“you n me”。光の粒が弾けるようなキラキラとしたサウンドの余韻がいつまでも、STAR STAGEの上に残っていた。

怒涛のMPC捌きで、初っ端からオーディエンスを圧倒。間髪入れずに“Renaissance Beat”をドロップし、幕を開けたSTUTSのステージ。MPCを叩き、歌い、ラップし、さらにシンセサイザーも弾きまくる……という世界でも類を見ないSTUTSの唯一無二のステージが今、始まる。<Something incredible that’s about to take place>——ワクワクするような予感と期待がSTAR STAGEを満たしていく。

TAIHEI(Key)のエレクトリック・ピアノ、武嶋聡(Sax&Flt)のフルート、仰木亮彦(G)の甘いトーンのギター、岩見継吾(B)のウッド・ベースが、STUTSの奏でるフィジカルなビートに絡み合う“Summer Situation”は、最高気温25度越えの今日のような日に相応しい1曲だ。次に披露されたのは、長岡亮介と共作した新曲“いろどりのうた”。日本の四季の情景を「和名の色」に準えて描く、情感たっぷりな風通しのいい佳曲は、この日が初披露となった。

続いて、スペシャルゲストとして盟友・BIMをステージに招き入れ、“マジックアワー”、“ひとつのいのち feat. BIM”をプレイ。CreativeDrugStoreのメンバーとしても知られるラッパーのBIMは、ロック・フェスの舞台にも物怖じせず(物怖じなんてするわけもないのだが)、圧倒的な存在感をもってSTUTSのビートの上でフローし、オーディエンスを盛り上げていく。

「今日から花粉症の薬を飲むのをやめました。花粉症の奴らも、そうじゃない人たちも、VIVA LA ROCK最後まで楽しんで帰ろう!」という初夏の訪れを感じさせるBIMのMCを挟んで、“Presence”へ。ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の主題歌で、BIMを始めとした、日本のヒップ・ホップのカッティングエッジなラッパーたちをお茶の間へと引っ張り出したこの曲は、まさに2020年代の新たなクラシック。フックではシンガロングも巻き起こり、会場が一体となった。

「今日の夜まで使いはたして、帰ってください。Peace Out!」と、言い放ちステージを去ったBIMの言葉を引き継ぐようにプレイされたのは、ダメ押しの大名曲“夜を使いはたして feat. PUNPEE”。STUTSの奏でる太いビートがバンドの演奏と絡み合いながら、大きなグルーヴを奏でていく。

ラストを飾ったのは“Seasons Pass”。<I'll leave this room before you go>というリリックのこの曲をラストにもってくるところが洒落ている。MPCを叩きながら、ハンド・クラップを求めるSTUTSに大きな拍手で応える、オーディエンス。緩やかに過ぎゆく季節の中で、STUTSとVIVA LA ROCKが奏でたこのビートは今、永遠になった。

4月にアメリカ・カリフォルニア州で行われたCoachella Valley Music and Arts Festivalに出演したことも記憶に新しい、日本のヒップホップ・クイーン、AwichがVIVA LA ROCKに降臨。

スピリチュアルなチャントが鳴り響き、“THE UNION”が始まる。現在、彼女は昨年リリースしたアルバム『UNION』を提げた全国ツアーの真っ最中。<ライブ 取材 すぐに撮影/スタッフ100人で乗り込む現場/5倍速で進む私の神話>というリリックの通り、大忙しの彼女だが、圧倒的なパフォーマンスを初っ端から見せつける。

真っ暗なステージの上で一条のスポット・ライトを浴びながら自らのハードなライフ・ストーリーを物語る“Queendom”のラップにオーディエンスたちは真剣な表情で聞き入る。Awichがスピットする言葉の一つひとつが、目の前に広がる人の海に染み込んでいくようだ。

紫色の激しいレーザー光線の照明と<全部演技全部演技全部演技>とシャウトするAwichの鬼気迫る表情が印象的だった“NWO”を経て、冒頭から3曲続いたシリアスで張り詰めたムードを自ら打ち破るかの如く「怖くないですよ〜。噛まないよ、Relax」と、ゆるい口調でMCするAwich。

続いて披露した“Remember”では、ダンス・ホールなビートに合わせて、ゴージャスな肢体を艶かしくくねらせながら「後ろのほうも見えてるよ!」と、妖艶に笑う。自分の表現を手加減なしで完遂していく力強いステージなのにも関わらず、誰一人として置いていかない、そのビッグでウォームな包容力はまさにクイーンの称号に相応しい。

後のちゃんみなのステージの際にも思ったことだが、2014年の初開催当時にはロックとポップのアーティストがメインのラインナップだったVIVA LA ROCKというフェスが、11年目の今年になってフィーメール・ラッパーを2人もSTAR STAGEにフィーチャーした、というのは日本のポップス史における一つの転換点だと思う。それはラップ、ヒップホップというジャンルが、この10年でさらにポピュラリティを増したということ、そして、数々の苦闘を経て(それは引き続いてもいるのだが)女性の権利拡大・回復が進んだということの証明であるとも言えるだろう。

だからこそ、“どれにしようかな?”の<女は女らしくとか/うるせぇんだよ Shut the fuck up>というラインを大勢の観客の前でスピットしたことや、Awichが娘のYomi Jahをダンサーとして招き入れ、“Call on me”と”ALI BABA”をパフォーマンスしたことには大きな意味がある。これを「女性のエンパワメント」というイージーな言葉で片付けることは容易いが、Awich自身が”BAD BITCH 美学 Remix”をパフォーマンスする直前「男も女も関係ないからよ!」とシャウトしたように、彼女は男性(中心社会)の抱える「問題」を指摘し、女性の「闘争」を鼓舞し、音楽というウェポンを用いて、すべての人を解放しようとする果敢な試みに挑んでいるように思う。

後半戦は、もうAwichの楽勝の独壇場だ。<バカばっかだ全く>の合唱がオーディエンスを解放し、カタルシスを呼んだ“洗脳”から、ラストまではメドレー形式で披露された。「文句があんならCoachella出てみろ!」とセルフ・ボーストした、“WHORU?”。“RASEN in OKINAWA”で<本当に成功の反対にあるのは何にもやらないこと>のラインがドロップされると、この日一番の歓声が観衆から湧いた。“LONGINESS Remix”では「適当でもイイから、声出せよ!」と、最後の最後までSTAR STAGEの全力を引き出そうとしていた。

ラストの“GILA GILA”では元のリリックの<Mステ出たから何?>を<Coachella出たから何?>に変え、シャウトしたAwich。成し遂げてきた偉業を足場にして、さらに高く飛び立とうする黒く美しい不死鳥のようなその姿は、今日この日STAR STAGEに集った、多くのバッド・ビッチズ、バッド・ボーイズたちの心に火をつけたに違いない。

バック・バンドの演奏と共に、ステージに現れ出でた、やたら背の高い演説台。その上からサングラスをかけたHYDEがひょこっと顔を出す。1曲目は、“UNDERWORLD”。とても御年55歳とは思えない、十字路で悪魔と何かしらの邪悪な契約でも交わしたかのような美貌である。そして、何よりもその凄まじいヴォーカルに圧倒される。日本のロック史に数々の爪跡を残した、唯一無二の歌声。”MAD QUALIA”では、セクシーな囁き声から、パンキッシュながなり声まで多種多様なバリエーションを見せつけ、オーディエンスを魅了する。

「最新のヒップホップだと思ってください」と嘯くHYDEは生粋のエンターテイナーでありサービス・マン。「高所恐怖症の僕がこの台の上に立てたら、はっちゃけてくださいね。ああ……怖い……」などと言いながらお立ち台の上で立ったり、しゃがんだりしながらオーディエンスを煽りあげる。30年以上も日本のロックを背負ってきた肩書は伊達じゃない。ギターのラウドなリフが会場を揺らした“DEFEAT”からは、かけていたサングラスを外し、ご尊顔を開陳。映画『ベニスに死す』のビョルン・アンドレセンを彷彿とさせる、天使のような美少年感も健在だ。

スタジアム・モードのさいたまスーパーアリーナで鳴らされるに相応しい、イントロの合唱が巨大な一体感を生む、“TAKING THEM DOWN"。ロングトーンの絶唱を響かせた後、こんなのお茶の子さいさいとばかりにマイクを何気なくくるっと回す仕草が、またなんとも言えずクール。

自身の最新のモードを披露した後、ステージを降りたHYDEはフロアの柵前に立つ。そして、アカペラで歌い始めたのは、L'Arc〜en〜Cielの大ヒットナンバー“HONEY”。こんなの盛り上がらないわけがない。オーディエンスにもみくちゃにされつつ人海の上に立つHYDEの姿はまさに神か仏か、というような神々しさなのだが、あくまで実に軽く、肩の力が抜けた状態で歌っているところに音楽的な地力と凄みを感じた。

“6or9”ではまずフロアの観客たちを座らせ、「1・2・3」の合図でジャンプ。ステージ上には腕長お化けも出現した。コール&レスポンスを繰り返しつつ、タオルを振り回させ、観客の心と身体を完全に掌握していく。

ピアノとギターのフレーズが幻想的な雰囲気を醸し出す、“BELIEVING IN MYSELF”では、クリーンで澄み渡るような歌声を響かせる。跪き、懇願するような表情でカメラに向かって歌う、HYDEの蠱惑的なパフォーマンスにまた心奪われてしまう。

「ありがとう、VIVA LA ROCK。温かいお客さんで、すごく良かったです。最後、はっちゃけろよ」という一言と共にプレイされたのは、映画『NANA』の主題歌“GLAMOURAS SKY”のセルフ・カバー。パンキッシュでヘヴィメタルで、つまり最高にカッコいいアレンジだ。最後はバス・ドラムからジャンプし、投げキッスをして去っていったHYDE。VIVA LA ROCK初登場にして、あまりにも衝撃的なライブをSTAR STAGEに刻みつけていった伝説のロックンローラーは、神のように、悪魔のように、レジェンダリーなエンターテイナーだった。

血の色のように真っ赤な照明の中、朱色のドレスと網タイツ、無骨なブーツを身に纏い、ステージに姿を現した、ちゃんみな。ドロップされたのは“RED”だ。幼少期に体験したトラウマを歌った痛切な内容のこの曲をバンドの奏でるハードな音像と共に、ドスの効いたヴォーカルでオーディエンスに叩きつける。ブリーチしたアイブロウのせいか、フロアを睨み付ける眼光の鋭さが際立つ。

ボンテージ風の衣装を着た男女混合のダンサーたちがステージに加わった、“I'm a Pop”。この日のMCで、ちゃんみなは「私はポップでも、ロックでも、ヒップ・ホップでもないって言われてきたけど。いや、どうでも良くね?って思っていて。I love hip-hop. I love Rock 'n' Roll. I love music. 全部、音楽だろ!」と力強く宣言していたが、まさにそんな彼女のスピリットを体現するような一曲だった。

続いて披露されたのは、“Princess”。<世界一 Microphoneが似合うプリンセス>は、シリアスでエモーショナルな最初の3曲でしっかりと自己紹介を終え、スタートラインを定めた。ここからは、ちゃんみなの目眩く百花繚乱の世界が始まる。

“B級”ではダンサーたちとラインナップしてTwerkまでキメてみせ、“ボイスメモ No.5”では男性ダンサーを従えて、妖艶に絡む。かと思えば、次の“ハレンチ”においては女性ダンサーとキスするようなパフォーマンスで、魅せる。リリック自体はシス・ヘテロ的な筆致だが、ちゃんみなの表現にはクィア・カルチャーをも内包するポップネスとコンテクストが宿っている。

「これはあなたの歌だよ、歌える人、歌ってね」と呼びかけ、プレイされたのは“美人 (Remix) feat. Awich”。STAR STAGEにAwichが再降臨し、視線と表情、ラップでコミュニケーションを取り合いながらパフォーマンスする2人。その様子は支え合うようでもあり、「まだイケんだろ?」とお互いがお互いを挑発し合うようでもあり。「We're fucking beautiful!」とシャウトした、2人の汗に塗れた満ち足りた表情は、まごうことなく——美しかった。

次世代へと音楽の遺伝子と愛を手渡していくことへの想いを語り、ドロップされたのは“Never Grow Up”。ラップだけでなく、ヴォーカリストとしてもポップからハードなロックまで多種多様なジャンルを乗りこなすことができるのが、彼女の凄みだ。「おい、VIVA LA ROCK、私よりロックになれんの!?」と、オーディエンスを煽り上げ、マイク・スタンドをロックスターよろしく抱えながら、ハードに歌い上げたのは“ダイキライ”。<I hate you>と絶叫にも似たスクリームが、STAR STAGEを激しく震わせる。

過酷な現実をスピットし、恋を踊り・歌い、ガール・パワーを宣言し、エモーションを炸裂させたちゃんみなのステージ。最後の曲は、“I'm Not OK”。「私が大丈夫じゃなかった時に、音楽が私を助けてくれました。強いだけじゃ人は疲れていきます。音楽は、あなたを救ってくれると思います」と語った、ちゃんみな。完璧であろうとし過ぎて「大丈夫じゃない」と言う勇気が持てない、すべての人たちの背中を押すような、ヒリヒリとしてそれでいてとても優しい歌を歌う、彼女はやはりプリンセス。ちゃんみなの想いを受け取った、キッズたちはきっとこれから先もずっと「大丈夫」だ。

Creepy NutsとVIVA LA ROCKの縁は、本人たちが「CAVE STAGEに出過ぎて、二度とあの洞穴から出られないかと思っていた。あの熱気むせ返るようなステージで鍛えられた」と、MCでも話していたように、長く深い。初出演は遡ること8年前、2016年のこと。11周年目の今年、満を持してCreepy NutsはVIVA LA ROCK 2024初日のヘッドライナーを務めることになった。

この日、1曲目にドロップされたのは“ビリケン”。体が痺れるほどの、スクラッチ音と高速ラップの波状攻撃が、音の弾丸となって身体を通り抜けていく。ジャジーでスウィンギーなリズムが否応なく高揚感を誘う“堕天”で会場全体を祝祭的なムードで包んだ後、披露されたのは“合法的トビカタノススメ”。オーディエンスたちは我を忘れて、飛び跳ねる。

「いっぱい求めるけど、全然一緒の動きとかせんでええぞ。そもそもバラバラな人たちが楽しみにきてるんだから、自分の思った通りに動いたらええねん。どこにも当てはまらないバラバラな我々が今日のトリなんですから」

“顔役”の直前のMCでそんなふうに語ったR-指定の言葉に、2017年のCAVE STAGEに2人が出演した時の記憶が蘇った。欠落を抱えた人々が反骨心を持ち寄り決起する不法集会のようだった、あの日のステージ。確かにアクトとしてのスケールとステージは大きくなったが、彼らの核にある「はぐれ者の実力者」であるという誇りは、決して消えてはいない。

<I'm a Rapper Mr.Champion/No gangsta だが看板かつ顔役>とスピットする“顔役”しかり、ヒップホップのファッション的側面は実力とイコールではないと中指を立てる“耳なし芳一Style”しかり、マイクとターンテーブルを武器にのし上がってきたその道程を歌う“生業”しかり、DJ松永の「世界一」のルーティーンしかり……。今、彼らがこれらの反骨心に満ちた楽曲をプレイすると、王者の風格とでも言うべき「凄み」のようなものが立ち上る。

「保護者一人につき小学生以下の子供は一人、入場無料」という取り組みを施行し続けてきたこともあってか、例年以上にキッズの姿が多く見られた今年のVIVA LA ROCK。そんなキッズが、我を忘れて踊り狂っていたのが、“Bling-Bang-Bang-Born”だ。現行の世界のヒップホップのトレンドとも繋がるミニマルなビートに、手加減なしのラップ。そんなハイコンテクストな楽曲を完璧に歌い・踊る、少年少女たち。ヒップホップがチャートに入らない歌の国・日本という言説は、もはや過去の話になりつつあるように思う。

「ライブの楽しさっていうのは何も変え難い非日常の体験。このぶっ飛んだ空間を絶やさずにキープし続けて、日常に戻った後に何か怠いこととかしんどいことがあったら『二度寝』でもして戻ってきましょう」というMCに続いて披露されたのは、ドラマ『不適切にもほどがある!』の主題歌、“二度寝”。タイムスリップというドラマのテーマをモチーフに、対立を超えた相互理解を歌うR-指定のリリックは新たなモードへと突入している。

チルなグルーヴとギターのファンキーなリフが心地よくフロアを揺らし、ノスタルジックな街の風景を描き出す“風来”。そのロマンティックなムードを保ったまま、夜の情景をさらに深く描写していく“ロスタイム”を続けてドロップ。心地よいビートとラップに体を揺らしていると、気がつけば、もう残すところ、あと一曲。

本編ラストに演奏されたのは“よふかしのうた”だった。『オードリーのオールナイトニッポン』の主題歌であり、Creepy Nutsの名を世に知らしめた曲の一つでもある、この曲。初めて夜更かした時のあの無限に広がる自由なフィーリングを描いたリリックは、キッズには未来へのワクワク感を、大人たちには初期衝動を思い起こさせる。

「(拍手が)まばらな感じですけど、出てきました」と、ニヤニヤしながらアンコールで再びステージの上に現れた2人。そんな2人の様子に応えて「アンコール」の声がオーディエンスから巻き起こる。「やるなよ、って言ったことをやってくるな!」と、非常に満足げな2人。「俺らとの遊び方をわかってる気がしますね」と、笑う。そりゃそうだろう。VIVA LA ROCKのオーディエンスは、長年このフェスに通ってきている人たちも多い。Creepy Nutsは、いわば「仲間」のような存在なのだから。

この日の締めに2人が選んだのは“のびしろ”。いくらヒット曲があっても、日本を代表するヒップホップ・アクトになっても、目指すべき場所はまだ目の前に広がっている。<俺らまだのびしろしかないわ>の大合唱は、いわば、Creepy NutsとVIVA LA ROCKの約束。変わっていくもの、変わらないもの、それぞれあるけれど、自分たちが大切にしてきたものと最初に感じたワクワクを忘れずに、前へと着実に進み続けることの大切さをCreepy Nutsは、この日のステージで証明したのだった。

テキスト=小田部 仁
撮影=釘野孝宏