
総括レポート
Let the beat carry on!
強者どもが次世代と繋ぐ魂のバトン
爆音の隙間からシーンの未来を見た
これが朝10時の熱気か。開演前のプロデューサー有泉からの挨拶中、「自由に、だけどお互いを思いやって、ケガだけはしないでください!」というお願いに対しても、あちこちから「はーい!」という元気で頼もしい声が聞こえてきた。今日は4日間で唯一、スタンディングエリア前方に「うっとりエリア」(激しい動きを禁ずるエリア)が設けられている。逆に言えば、それだけパンク/ラウド系のアクトが顔を揃えているということだ。
一発目のFear, and Loathing in Las Vegasは、「おらー!」というSo(Vo)のハイトーンな煽りから助走なしでいきなりピークを突いた。オープニングナンバー“Return to Zero”の冒頭では、フロントに立つ4人がステージの広さを存分に使いながら縦横無尽に駆けずり回り、間奏ではボーカル2人の振付が映えるように、弦楽器隊のTaiki(Gt)とTetsuya(Ba)は定位置で冷静に弦を弾く。この手のバンドのライブではあまり見ることのできない、轟音の隙間から垣間見える規律が実に美しい。これは彼らのパフォーマンス中、常に徹底されていた。
印象的なシンセフレーズを多用した特徴的な楽曲は、テンポチェンジや転調を駆使することで、観客の脳内に存在するあらゆるスイッチを押しまくり、容易にネジを飛ばす。昨年結成15周年を迎えたバンドの歴史は5人に幾重にも重なる経験を与え、それは絶妙な曲間やちょっとした煽りといった細かな表現すら快楽のトリガーにするような巧緻さにつながっていた。2度のMCを挟み、“Let Me Hear”や“Just Awake”といった人気曲の数々を投入していったが、どの曲をやったかというのはあまり重要に感じなかった。この35分という時間がひとつの作品のようであった。Minami(Vo&Key)が振り回すマイクケーブルが描くうねりすら芸術だった。
圧巻だったのは、“Crossover”だ。楽曲中盤に現れる極悪ブレイクダウンから一瞬のブレイクビーツ的ビート、そして4つ打ちのダンスパート――目くるめくカオスとユニティがTomonori(Dr)を中心に生み出され、フロアの熱量をさらに高めるのだった。
ビバラ4日目、すべてのアクトのトップを切って参上した5人は、さいたまスーパーアリーナの真っ白なキャンバスを思いっきり自分たち色に染め上げた。彼らがステージを去ったあと、隣のSTAR STAGEのスタンディングエリアを見るともう満員。一体どんな一日になるんだろうか。胸が期待で高鳴った。
すでにステージの定位置についていたメンバーから「はよいけ!」と煽られてアタック映像が流れ出した時点で、4人はビバラを牛耳っていた。ステージを仕切るのは自分たちであり、フロアを埋め尽くした観客なのだと宣言していた。
コロナ禍以降、The BONEZのパワーは日に日に増している。彼らは明らかに以前よりも多くの人間を自分たちの渦に巻き込むようになってきた。昨年から長い時間をかけて行ってきた47都道府県ツアー、その合間に敢行した初のホールツアー、そして4月の幕張メッセにおけるワンマンライブ――これらすべてがバンドの糧となり、今日という日につながっていることを強く感じた。JESSEのMCにあった「ライブをやれることだけが俺たちの幸せ」はただの聞こえのいいセリフではない。それはこのライブが証明していた。“New Original”ではライブハウスらしさを象徴するかのようにウォールオブデスを起こし、「石川県から来た人たち、俺たちがいるから心配するな!」と能登半島にエールを送った“Thread & Needle”では、団結を意味する輪っかが自然とフロアに生まれていた。
“We are The BONEZ”は、そのタイトルから4人のことを歌った曲だと思っている人がいるかもしれないが、実は「俺たちのチームに加わりたいなら来いよ」とフロアにいる人間全員に向けられた曲でもあるのだ。今日、この場にいた人ならそのことを肌で感じたはずだ。
「フェスの短い時間で自分たちのすべては伝わらない」と公言するアーティストやバンドは多い。たしかにそうかもしれない。理解はできる。だけど、これだけフェス文化が発展してきた今、そうとも言い切れない気がする。現にThe BONEZはこの短い時間だからこそ、自分たちのファン以外の人たちもいる場だからこそ伝えられるメッセージを発してはいなかったか? 少なくとも自分は何かを受け取った。それが胸の奥からこみ上げそうになるのをグッとこらえた。
それにしても、人の数がどんどん増えていく。最終的にどんなことになってしまうんだろうか。今年のビバラは全日ソールドアウトだが、今日はなんだか熱気がすごい。それに拍車をかけたのが04 Limited Sazabysだった。その瑞々しいパフォーマンスのせいで勘違いしそうになるが、フォーリミも今や中堅以上のキャリアを積み上げているバンドだ。彼らの持ち味はメロディのよさ、その魅力を増幅するGEN(Vo&Ba)のハイトーンボーカルと軽快かつ芯のある演奏であることは説明不要だと思うが、彼らのすごさは、演奏の強度を高め、その味を深めながらも、一番の肝をまったく損なっていないところだ。GENのボーカルはフレッシュさをまったく失わず、サウンドの軽快さもそのまま。“Jumper”のようなミッドチューンではゴリッとした重さと男臭さを堪能できるが、“fiction”や“midnight cruising”など昔から愛され続けている楽曲はアップデートされながらも芯は変わっていない。それはKOUHEI(Dr&Cho)による職人的なドラミングが寄与する部分も大きい。スッと伸びた背筋、どんな複雑なフレーズを叩いてもまったくぶれない体幹から繰り出される正確なフレーズの数々はいつまでも見ていられるぐらい惚れ惚れする。
10年以上前に発表された名曲“monolith”が今でも瑞々しいメロディック・パンクの名曲として変わらず君臨し続けているのは、曲のよさはもちろんのこと、その鮮烈なパフォーマンスがあるからなのだ。本当にいい曲だ。
定刻の8分前、バックヤードでたまたま横山健に遭遇した。いつもどおりの横山だった。それから数分後、フロアに向かって手を振りながらステージに姿を現した彼は、さっきとまったく変わらぬ様子だった。つまり、普段どおりだったのである。別に気合が入っていないという意味ではない。彼の中で、音を鳴らすことやステージに上がることは生活の一部なのだ。
フェスだからってなるべくみんなが知っているような曲をやる、というわけではなかった。今日彼らが用意したセットリストは、半分以上が新作『Indian Burn』の収録曲で構成されていた。フェスであろうが、ワンマンであろうがやることは変わらない。実際、数週間前にツアーファイナルを観た時と比べてアティチュードにそこまで大きな違いはなかった。さいたまスーパーアリーナという大会場だろうが、いつもどおり下ネタを言う。やろうと思えばフェスならでは派手な演出ができるのにステージ背後に設置された巨大スクリーンを全く使用しない。“Let The Beat Carry On”でマイクを客席に投げ込み、観客に冒頭のフレーズを歌わせてからバンドインするのだっていつもの光景だ。
ひとつ、Ken Yokoyamaが1年前と違うところがあるとするなら、この1年の間に新たな名曲の数々が生まれたことだろう。なかでも、“These Magic Words”はすでにKen Yokoyamaの新たな代表曲となっている。結成から20年以上が経ってもまだ、彼のメロディセンスは健在なのだ。
Ken Yokoyamaは平均年齢50オーバーのバンドだ。ほかのバンドのように若々しさはないかもしれないし、下ネタが多く、しかもドギツいかもしれない。それでもあなたがこのバンドの何かに惹かれたのならば、それは間違いなく、横山健という人間を中心とした4人の「生身」を全身で受け止めたからだし、4人がさらけ出した「人生」に当てられたからだ。そして、そんな彼らの「生身」や「人生」は今後さらに深みを増していく。その証拠に、Ken Yokoyamaのライブは今もまだキャリアハイを更新している。そう、今日のライヴのように。
盛大な手拍子に出迎えられた3人は20年以上前に10-FEETの名を初めてパンクシーンに轟かせるきっかけとなった“RIVER”でフロアを包み込んだ。そして、「ありがとうございました! 10-FEETでした! バイバイ!」と早くもフロアへ別れを告げるやいなや、「アンコールやります!」と “ハローフィクサー”へ。
「あと25分で5曲、いけるかな?」「いける!」と食い気味にメンバーからツッコまれてからは、MCの時間をなるべく削り、ただただ名曲(かつ、代表曲)の数々を次々と3人は繰り出した。“VIBES BY VIBES”ではフロア最後方にいる観客が飛び跳ねている。視線を上に移すと、スタンドの500レベルにいる観客まで両手を上げてジャンプしているのが見える。まるで去年以降に彼らが日本全土で巻き起こしている旋風の縮図のようだった。そんなふうに盛り上がっている一人ひとりの背中をTAKUMA(Vo&Gt)は「行け! 行け! 行け! みんな、行け! 明日も! 明後日も!」と力強く押していく。“その向こうへ”、“goes on”といった名曲は、間違いなくさいたまスーパーアリーナという巨大な会場をひとつにしていた。
「今日はお前らとサヨナラのつもりでやる!」と覚悟を見せたあとは“第ゼロ感”。自分たちが様々なことを学びながら育ったこのシーンから、令和の日本を代表するような曲が生まれたことが誇らしい。俺たちの場所からこの曲が生まれたというプライドは、多くのキッズの胸を熱くしたんじゃないだろうか。ここで湧き上がったシンガロングは間違いなく今日一番のもの。そして、これまでに感じたことのないような感慨を噛みしめる間もなく “ヒトリセカイ”へ。これで最後かと思いきや、「知らんヤツいっぱいいると思うから、新曲だと思って聴いて!」。そして、「心を込めて言います、ぶっとばーす!」と持ち時間残り2分半というパンク的なゴールデンタイムを使って“back to the sunset”(イントロ抜き)をプレイ。王道で済まさず、きっちりライブハウスマナーに則ってぶちかまし、「ありがと、また来るわ、またおいで」と言い残して3人はステージを去った。わかったよ、また来るから、また来てね。
4日間に及んだ今年のビバラでVIVA! STAGEの大トリを務めたのはMONOEYESだ。 この日のVIVA! STAGEは爆音をかき鳴らすバンドが多かったが、MONOEYESは違った。ソリッドにまとまったサウンドは耳に心地よく、メンバーそれぞれの音がよく聞き取れ、アンサンブルの楽しさも十二分に伝わってくる。4人が描き出す雄大なグルーヴからはスタジアム・ロック的なスケールが感じられ、まるでどこかの球場で観ているかのような錯覚を起こさせた。実に爽快だ。MCで細美武士(Vo&Gt)も「音出してて思ったけど、バンドっていいなと思ったよ」と言っていた。ステージとフロアは必ずしもイコールではないが、同じ思いが共有できているような気がした。それは今日という一日が生み出したマジックだ。
Scott Murphy(Ba&Cho)がメインボーカルをとる“Roxette”や、“明日公園で”はハーモニーが美しく、後者で戸高賢史(Gt)が聴かせたギターソロは前に出すぎないながらも存在感のある温かさで鳴り響いた。そして、全編にわたって素晴らしかったのは、一瀬正和(Dr)のドラミングだ。冷静と情熱の間を行き来する彼の安定感のあるプレイはいつ観ても惚れる。そして、それぞれの持ち場を100%守りながらも、それらが有機的に溶け合っていく。すべてのバンドの手本になるような演奏だ。
世の中はたくさんの音楽に溢れている。そして、今の時代には昔と違って様々なジャンルが好きだという音楽ファンも多い。だけど今日は、やっぱりロックが一番だ、パンクが最高だと言い切ってしまいたくなるパワーに満ちていた。そんなことをラストの“Borders & Walls”を聴きながら思うのだった。
今日、VIVA! STAGEに出演したバンドは、次のバンドに繋ぐことを一番に考えてライヴをしようだなんて思ってはいなかったはず。だけど、こうやってFear, and Loathing in Las VegasからMONOEYESまで見事にビートはつながっていった。VIVA! STAGEの最後がMONOEYESで本当によかった。そして、本当にいい一日だった。
テキスト=阿刀“DA”大志
撮影=小杉歩