
「洞窟」から湧き上がる音楽の泉。
最終日、CAVE STAGEで起きた
幾多のドラマが担う
これからのロックシーン
VIVA LA ROCK 2022、最終日のCAVE STAGE。蝋燭バルーンでデコレーションされた通路の先にある、「洞窟」の異名を持つこのステージで起きた幾多のドラマ。そのひとつひとつがこれからのロックシーンを、音楽シーンを、一層面白いものにすると思う。それはもう断言できる。洞窟から押し上げる「なんだか分からないけれどとにかく凄いパワー」を、CAVE STAGEに足を運んだ人ならば身をもって体験しただろう。こういう得体の知れない何かを求めている僕らにとって、VIVA LA ROCKにおけるCAVE STAGEは宝島のようなものだ。
CAVE STAGEのトップバッターは黒子首。ビバラへのキックオフ・ツアーでもある「ビバラ コーリング!」を経てのVIVA LA ROCK初出演ということで彼らが気合充分なのは、バンドのアンセム“Champon”を1曲目に持ってきたことからもビシビシ感じる。淀んだ世界と手を繋いで黄ばんだ世界にあっかんべーからのウォーアイニーな、ある意味ツンデレな愛の歌をクールに届ける黒子首の世界観にCAVE STAGEが息を飲む。息を飲むのだが、ドラムの田中そい光がステージ前方に出てきて「みんなの徒歩圏内でありたい!」と叫ぶもんだから、飲んだ息をプハァーっと噴き出してしまう。黒子首というバンドのパブリックイメージがパブリックイメージでしかないことをライブを観る度に痛感する。まさに「いっせーのーせでひっくり返される」わけだが、中でも“時間を溶かしてお願いダーリン”のキュートさには正直メロメロである。今日はサポートにギターとキーボードを迎えていることもあり、倍増したネオアコ感も素晴らしい。場末のクラブのビッグバンドっぽさが際立つ“拝啓アサシン”もだけど、黒子首は一体どれだけ引き出しを持っているんだ。そして印象的だったのは、夢であるVIVA LA ROCKの出演を果たした堀胃あげはが語った「それでも満足はしたことがない。まだまだまだまだ欲望の途中」という言葉。欲望とは夢。VIVA LA ROCK出演であったりメジャーデビューであったり、夢をひとつずつ着実に叶えてきたバンドだからこそ「それでいいのか、これでいいのか」と自問自答しながら進む黒子首。まだまだ始まったばかり、欲望は続くよ何処までも。
フィードバックノイズの中、ステージに登場したにしな。彼女の音楽はバンドの持つロック感と打ち込みのバランスが絶妙で、言うなればそれはJ-POPど真ん中なんだけれど、ただでは終わらない独自のエッセンスを注入することで完全オリジナルサウンドを作り上げているのが印象的。それは良い意味でのざらつきだったり、癖だったり、ハイブリッド感だったり、音源を聴いて一筋縄ではいかないと思っていたのが、ライブを観て確信に変わった。ハイブリッド感といえば“スローモーション”のサビは英語、中国語、日本語とシフトしていくのも面白いし、その中国感はそのまま“FRIDAY KIDS CHINA TOWN”にも繋がっていく。“ワンルーム”ではポエトリーリーディングとはまた違った「会話」があったり、アウトプットのバリエーションが豊富なのもにしなの魅力だ。耳に飛び込んできた言葉として思いっきり腑に落ちたのが<愛し合えば誰しもスローモーション>という言葉。愛し合う、つまり今日だったらVIVA LA ROCKでライブをすることだったり観ることは、言い換えれば愛し合うことだと思うのだけれど、この瞬間って本当にスローモーションに感じることがたくさんある。例えばそれは、感情が揺さぶられた瞬間に起きる現象だったりするのだけれど、にしなのライブで感情が動けば動くほど景色がスローモーションになるのだ。そして、その瞬間は真空パックにして持ち帰ることができないのもライブがライブである意味なのだろう。にしなが作り上げたVIVA LA ROCKのその瞬間を大事にしたい。
Hakubiというバンドは、Vo&Gtの片桐は、本当に不器用な生き方をしてきたんだと思う。生きているだけで、息をするだけで苦しかった日々。そうやって指折り数えた苦悩の毎日をどうやって乗り越えてここに立っているのか。CAVE STAGE、この「洞窟」で歌うその姿を観て、片桐はHakubiを通して、ライブを通して、VIVA LA ROCKを通して、悲しいほどにあっけなく終わっていく毎日を繋ごうとしている気がした。それは決して忘れてしまうわけでも、消えてしまうわけでもなくて、心の痛みも、記憶も、思いも、全部抱きしめてひとつ残さず持って先に行こうとしているように感じるのだ。こんな時代を生きているんだから痛みはいきなりやってくるし、その痛みに慣れないようにいちいち傷つくことも必要かもしれない。そうやって感じたことを全部覚えていたい。その痛みを、傷を、忘れない為のHakubiだ。昨日が今日になって今日が明日になっても何も変わらないかもしれないけれど、そうやって台無しにした昨日を帳消しにするのがロックバンドにとってはライブだと思う。僕たちだって、絶望の日々を超えてVIVA LA ROCKを迎えている。そうやって辿り着いた先が洞窟なんだったら、ここから更に這い上がればいい。「あなたが見たいのは、洞窟からのし上がっていく姿でしょう」と叫んだ片桐。だったらとことん付き合うぜ。来年のVIVA LA ROCKが開催される頃、今日ここCAVE STAGEでHakubiを観たことは目撃した者にとっての自慢となっているだろう。
「君島大空 合奏形態」はその名の通り、君島大空が新井和輝、石若駿、西田修大からなる合奏形態でのライブを展開するバンド。いや、バンドというかもはや「君島大空 合奏形態」という物語だ。まるで映画を観たような……という使い古した表現の何倍もリアリティのあるライブに放心状態。それくらいとんでもないものを観た。CAVE STAGEごと空間を切り取られるイメージ。そしてそこで鳴る音全てが狂おしいまでに美しい。君島大空の歌はもちろんだけれど、例えば“きさらぎ”のギターソロであったり“遠視のコントラルト”のリズムの鳴りだったり、“散瞳”でのバンドのグルーヴだったり、「君島大空 合奏形態」が「君島大空 合奏形態」である意味を感じるポイントが随所に散りばめられているし、何より君島が楽しそうなのが実にいい。4人で音を奏でる楽しさ、4人だからこそ生まれる激しさ、この4人だからこその多様さ。そういった合奏だからこその要素を本当に嬉しそうに演奏する君島の表情が全てを物語っていると思う。こうやってバンドがバンドとして音楽を体現することがこの数年できない時期もあった。でもたとえ、うねる白い波が全て攫ったとしても、それと同じだけ打ち寄せる光景があれば先に進めることを「君島大空 合奏形態」がVIVA LA ROCKで証明してくれた。CAVE STAGEそのものが発光体となったかのような目の前で起きた光景に、しばらくは何も考えず浸っていたい。
コロナナモレモモことマキシマム ザ ホルモン2号店こと…コロナナモレモモこと…あれ?どっちだ? とにかく、コロナナモレモモがVIVA LA ROCKをド変態で埋め尽くした。違う、ちょっと待って。ド変態というのは本店であるマキシマム ザ ホルモンのマキシマムザ亮君が命名したファンの総称であって、決してド変態な訳では……いや、ライブを観ていて思ったけど、やっぱりバンドもファンもド変態ばかりだったわ。本店でもお馴染みのSE、SPACE COMBINEの“Marchin’ Mint Flavor”がCAVE STAGEに鳴り響きメンバーがステージに登場すると興奮を隠しきれないド変態ども…あ、ド変態達、いやもうどっちも悪口に聞こえちゃうな。“包丁・ハサミ・カッター・ナイフ・ドス・キリ”や“ビキニ・スポーツ・ポンチン”といった本店の名曲をエレクトロ混じりの人力ミックスしたアレンジで叩きつけると、CAVE STAGEは巨大なクラブ状態に。“シミ”では本店のナヲパートをオマキが歌うことでまた違う魅力を発揮したり、本店にはないDANGER×DEERによるDJプレイが加わることで楽曲が本店とは全く違う表情になるのも面白い。“「F」”、そして“恋のメガラバ”といったキラーチューンを畳みかけライブを終了したコロナナモレモモ。2号店でしか食べられないアレンジメニューにド変態もお腹いっぱい夢いっぱいのはずだ。
幸せにも日曜日があるみたいで、そういう意味ではこの数年はもしかしたらずっと日曜日だったんじゃないのって思ってしまうこともあるけれど、だったら休日返上でVIVA LA ROCKを幸せで包み込んだMr.ふぉるて。一方通行じゃなく一緒に幸せになること。世界が涙ぐんでも、スーパーマンがいなくても、ロックバンドが、Mr.ふぉるてが優しいメロディをもって今ここにいるひとりひとりに届くように歌ってくれている。それがどれだけの悲しみを溶かすか僕たちは知っている。空を飛べなくても目からビームが出なくても、音楽は人を救えるのだ。そして「僕らは無敵さ」と肩を組んでくれる。それがMr.ふぉるてだ。今日彼らのライブを観ながら感じたのは、彼らは確かにスーパーマンのような100パーセントのヒーローではないかもれないけけれど、自分たちの音楽を必要としてくれる人の前ではその威力を発揮できる傷だらけのヒーローなのかもしれない。無責任な頑張れじゃなくて、頑張ることを頑張らなくていいって言ってくれる。ストイックなのも大事だけどチョコレートだってアイスクリームだってたまにはいいよって言ってくれる。ほら、Mr.ふぉるては近くにいるでしょ。幸せに日曜日があるなら不幸せってやつは月曜日から土曜日まで休ませておく。そしたら日曜日だって幸せに寄ってくるはずだ。そうやってMr.ふぉるてはいつだって近くで幸せを祈ってくれていることを実感するライブだった。
CAVE STAGE最後の最後で4日間で一番の爆音を轟かせた爆音小僧ズ、ドミコ。これ、本当にふたりでやっている?って思ってしまう音像にも驚かされる&気持ちよくなっちゃう。なんだろう、ギターとドラムでバトルしている感じというか、戦っているんだけど楽しんでいるような、とにかくこのふたりが鳴らす音に胸がパチパチするほど躍らされる。ライブ本番前からセッションでふたりの世界を楽しんじゃっているさかしたひかると長谷川啓太。そして楽しませてもらっている僕ら。フェスの転換ってこういう場面も楽しい。そしてライブが始まるとギターのチョーキングリフがいきなり襲い掛かってくる。CAVE STAGE、大トリ。最後の最後でドミコに体力という体力を全部使いきることを決めた。というか強制的に決めさせられた。“猿犬蛙馬”の猛襲を乗り越えたと思ったけど今度はおばけだ。インプロ的に始まった“ばける”が、いつの間にか“化けよ”に憑りつかれていることに気付いて鳥肌が止まらない。“びりびりしびれる”のギターとヴォーカルの掛け合いも最高だ。ルーパーで音を重ねながら抜くとこは抜く。この高低差がドミコの楽曲をよりスリリングにさせている気がする。ラストは“ペーパーロールスター”でファニーに締め、からのアンコールに“血を嫌い肉を好む”。ドミコのライブはドミコのふたりがふたりで音楽をすることが楽しくて仕方ないのが伝わってくるから嬉しくなっちゃう。最後のセッションなんて終わらなければいいとすら思った。音楽を用いたドミコのイチャイチャをVIVA LA ROCKで爆音で見せつけられて音楽万歳ってなっている。
今年のVIVA LA ROCKのCAVE STAGEでアーティストが何を発し何を感じたか。そして観客が何を受け取ったか。それはきっとこの先のロックシーンに還元されていくことになると思う。もっと言えばこれからのフェスシーンの先陣を切ったのが今年のVIVA LA ROCKだと思う。いつしかみんな、あの頃に戻すことよりも先に進めることを考えるようになった。そういう意味でこの4日間でCAVE STAGEに立った28組の動向は追っておいた方がいいと思う。だってきっと、彼らがこれからのロックシーンを担うアーティストたちだから。
テキスト=柴山順次
撮影=TAKAHIRO TAKINAMI