VIVA LA ROCK 2023

MESSAGE

2023.05.19

 まずはお礼を言わせてください。VIVA LA ROCK 2023にお越しいただいたすべての皆さん、入場無料の屋外フリーフェスVIVA LA GARDENにお越しいただいたすべての皆さん、どうもありがとうございました。10回目という節目を、そして世の中の空気が大きく変わってきた中での今回を、一緒に過ごしていただき大変感謝しています。

 そしてここに辿り着くまでの開催に関わってくれたすべての関係者の皆さんと音楽ファンの皆さんにも、大きな感謝をお伝えしたいです。
今回の10回目という開催は、このフェスの目標であり夢でした。今までの開催がなかったら、そしてみんなが「ビバラ」という愛称をつけて興味を持っていただいたり愛してくれたりしなかったら、このような素晴らしい開催には結びつかなかったと思います。

 今回、初めて総来場者数が10万人を超えました。「VIVA LA ROCK」本体の来場者数が123,000人、そして4年ぶりに復活させた「VIVA LA GARDEN」の来場者数が140,000人。延べ人数で263,000人という、ちょっと信じられないぐらいの人数の方々がさいたまスーパーアリーナとけやきひろばに来てくださいました。その上で「ビバラ!オンライン」の視聴者数が45,000人。つまり今年のビバラ全体を延べ308,000人もの方々が楽しんでいただいたことになります。この数字に関しても10回目でなければ、各所の協力のもとにVIVA LA GARDENを復活できなければ、2020年に絶対に諦めずにオンラインだけででもフェスをやるんだと頑なに動き続けなければ、実現し得なかったものであることは間違いないです。そういった数々の出会い、因果、そして埼玉県とさいたまスーパーアリーナ、すべてに感謝いたします。

 まずは去年の開催の数ヵ月前から今回に向けて動き出しました。最初に決めたのは「5日間やろう」ということです。今までは「ロック、アーティスト、バンドマン、埼玉を祝うためにやるフェス」という基本指針がしっかりあったのですが、今回だけは10回に一度「少しだけビバラ自体を祝ってあげよう」という気持ちを込めて、通常より多くビバラというフェスを世に放つことにしました。もちろん5連休という暦に恵まれた部分も大きいです。

 その上で昨年の夏の終わりから本格的に準備や構想を落とし込み始めました。一番メインに掲げたのは「VIVA LA GARDENを復活させる」ことです。
 さいたま新都心駅や北与野駅とさいたまスーパーアリーナを結びつける屋外広場である「けやきひろば」を使用し、ビバラの飲食ブースとキッズのための遊び場とビアガーデンとGARDEN STAGEが同居するVIVA LA GARDENは、このフェスのチケットを購入していない人でも楽しめる名物エリアです。VIVA LA ROCKは基本的にアリーナ館内で行うフェスなので、近隣の住人の方には中でフェスをやっているのかワンマンをやっているのか、格闘技をやっているのか、何かの展示会をやっているか、わかりません。ビバラは地元の方や埼玉に愛されるフェスにしたいと願いながら始めたフェスですし、音楽空間としては最高であってもフェス空間としてはスペースが少ないアリーナでの開催なので、フェス空間的なるものを我々はけやきひろばに託しています。それがVIVA LA GARDENです。簡単に言えばビバラとは何なのか?ということがスピリットも含めてコンパクトにまとまっている空間がGARDENです。しかしこの3年間は近隣の方々が抱くであろう不安を考えて、そしてそもそもコロナ禍のルールの中で埼玉県からも我々が望むスタイルでの使用が認められず、開催できませんでした。だからこそ4年ぶりに絶対にGARDENを復活させるんだ、何よりもあの屋外エリアでも音楽を、ライヴを響かせるんだ、そして近隣の方々とビバラの交流を果たすんだと強く願い続けました。そしてそれが実現しました。

 もうひとつ強く願ったこと、それは「できるだけルールを取り払おう」というものでした。これはGARDENの復活と同じく、ビバラとしてのフェスの在り方を再び示したいという願いそのものでした。ビバラは当初からNGを取り払い、参加者の自主性を尊重する哲学をもって開催し続けてきたフェスです。自由という言葉を履き違えているという言葉もずっと投げかけられてきましたし、それを真摯に受け止めながら、それでも自主性を発揮するフェスとして運営してきました。

 今回の10回目への道のりを振り返ると、5回目までは順調に進化し続け、6回目で初のスタジアムモード(さいたまスーパーアリーナを通常のアリーナモードで使用するのではなく、アリーナ面を最大キャパシティに拡大して使用する、現状と同じ使い方のことです)での開催を遂げたことが印象的です。そこからさらに熟成させたいと思っていたところでの2020年は、有観客で開催できず。2021年は「開催すること自体に意味も意義もある」と固く信じ、徹底的な感染対策を施しながら開催を遂げました。そして2022年もコロナ禍での開催となり、前年同様に徹底した感染対策を施しながらも、それだけではなくフェスとしての前進を確かなものとして示したいと思い、アリーナを全面スタンディングにしたり、アルコールを楽しめるフェスにしたりするべく動き、それを果たしました。

 こうやって書くと「立ってりゃいいのか、酔えればいいのか」といういうふうに読み取れるかもしれません。コロナ禍は言葉自体の繊細さもさらに求められるものになり、フェスやエンターテイメントのような、大胆さが喜びや楽しみに繋がっていくものは一つひとつの伝え方が難しくなりましたが、決して立って酔えればいいわけではなく、ステージとフロアの距離感や、参加者に少しでも多くの選択肢をお渡しすることがフェスの醍醐味であるし、ただ単に音楽を浴びにきたのではなく、楽しみにきたんだという実感を持っていただきたいと思い、その願いをアリーナ全面スタンディングやアルコール販売に結びつけました。2021年は是が非でもフェスをやるという姿勢が生んだ開催だったと自負していますが、2022年はみんながフェスにしてくれた開催として、ビバラの歴史に永遠に残ると思っています。

 それが終わった後、2022年の夏からは、これが「元に戻る」ということになるのか、「この先への手応え」になるのかわからないけど、とにかくルールを振り解いた開催をするためにどうあるべきか?ということをずっとイメージしながら、あらゆることを進めていきました。
 細かい話ですが、たとえば、今回のメイン入退場ゲートは今までとは比べものにならないほど大きなものを作りました。アニバーサリー感を形にして皆さんをお迎えするためです。実際に今までのどの開催時よりも記念撮影が行われていたようでありがたかったですが、あれはコロナ禍での開催をイメージしていたら作れないものなんです。本人確認、体調確認、チケット確認、そして検温&消毒と、入場するために複数のチェックポイントを設ける場合、あのゲートはえらく邪魔なものになります。要は、そういうチェックは今回はしないつもりであることを前提にデザインしたのが、あのゲートです。他にもこういう、「ルールを撤廃するからこそ復活させよう」と思うもの、新しく施すものが、おそらく皆さんが気づかないところでもたくさんある開催となりました。
 僕らは2021年と2022年は「コロナと向かい合い、コロナを断つ」ことでフェスを開催する意味を表しました。今回、2023年の開催は「コロナ禍と向かい合い、コロナ禍以降と共存していく」という明確な考え方をまず持つことから始めました。そのことが「ルールを撤廃していく」ということとダイレクトに繋がっていったが故に、運営的にルールの撤廃を細かく進めていきました。ホームページで「完全復活」「できる限りの自由」を目指すことをお伝えしていった時に、多くの反応をいただいたことも励みになりました。どうもありがとうございました。

 振り返ってみて、今回の開催ほど準備の段階で迷いがなかったものはないと思っています。初回が上手くいってしまった、つまりは素晴らしい出演者に恵まれ、たくさんの方々に来場してもらい、屋内フェスとして割と奇抜な部分――屋外無料エリアがあることや、当時の2番目に大きいVIVA! STAGEは屋内なのに自然光が入る野外ステージのような雰囲気だったことなど――があったが故にご注目をいただき、その後はずっと動線問題に四苦八苦し続け、毎回マイナーチェンジを試みてはまた、みたいな七転び八起きを繰り返してきたので、これまでは準備段階でずっと迷い続けてきたんです。そしてマイナーチェンジではこの動線問題は解消できないと思って導入したスタジアムモードでの開催(2019年)が根本的な解決に繋がり、よしゃ!と思ったところから、今度はコロナ禍との闘い。ある意味2021年は、迷っている姿を身内を含めて誰かに見せたらもう絶対に開催なんか許されない空気の中で進めてきたので、とにかく周りの言うことを聞かずに開催に向けて進める、そのために完璧な感染対策を発明するに等しい感覚で見つけるということをコアスタッフ同士で覚悟を決めてやったので、迷いなき開催だった気がしますが、振り返ればそれは何よりも迷っていたからこそのものだったと思います。

 そういう意味でいくと、今回は本当に迷うことがないまま開催まで一気に進められました。もちろん、世の中から僕らの考え方に対する声や風はありました。マスクを本当に取るんですか? ダイブやモッシュを全面禁止しないんですか? 前方エリアは抽選制にしないんですか? いろいろな意見をいただきましたが、その案にお応えすることはしませんでした。前述した通り、コロナ禍以降と共存する開催を示すこと、ロックフェスとしての選択肢と自由や、ライヴハウスなどで培われてきたライヴの遊び方を否定せず、尊重するという、初回からビバラがずっと大切にしてきた哲学に近いものを、今回は久しぶりに掲げられると思ったからです。時代性を踏まえた中で絶対にこれこそが正解だとは思っていません。ただ、VIVA LA ROCKというフェスはこういうものだということを割と今までもずっと発信し続けてきたし、それに応えて出演してくれるアーティストは少なくないと思っています。オーディエンスも、その空気感や考え方を理解して毎年参加してくれる方々も本当に多いと実感しています。それを久しぶりに今だからこそ、10回目という我々にとっても節目だからこそはっきりと示したいという想いは、例年以上に強く持って進んできたつもりです。

 いざ本番直前になりました。自分の会社は下北沢の商店街にあるのですが、3月ぐらいから平日を含めて驚くほどの人出が見えるようになり、海外からの旅行者の方々もたくさん通るようになりました。下北が活気を取り戻し始めた時は、古着屋は賑わっていてもライヴハウスはまだ閑散としていたのですが、最近はサーキットフェスやイベントも再び増え、ライヴハウス前の喧騒も蘇ってきて、確実に新しいフェーズにライヴシーンが向かっていることを目の当たりにしながら最終準備を進めました。
 そして桜が咲く頃にはチケット購入者も5日間合計で10万人を突破し、飲食出店舗の数や、何よりも飲食スペースの確保を最優先するための館内&GARDENのレイアウトを考え続けました。結果的に今回は5日間のうち3日間が27,000人(同伴の小学生以下のお子様の数を抜いた実数です)に達しソールドアウトすることになりました。当初からその数字を意識したレイアウトやアリーナ内の音響環境を考えていたので、後方スタンド用にディレイスピーカーおよびサービス映像ヴィジョンを配置しました。様々な感想があるかと思いますが、スタジアム内どこでも最高の音響を楽しめる空間が作れたのではないかと自負しています。

 いよいよ開催日を迎えました。我々のフェスはまず、VIVA LA GARDENからスタートします。GW初日の4月29日より4年ぶりのGARDENがオープンしました。今回のGARDENでは開催前からSNSでバズったコンテンツがありました。「ティラノサウルスレース」です。これはアメリカで始まり流行っているもので、最近は日本でもその姿を多々見てました。今年の東京マラソンを走った時も何組ものティラノを目撃し、これは行くしかない!と思い、大量に購入して親子に楽しんでいただけるコンテンツとして告知を開始しましたが、とにかく好評だったんです。で、これはヌルッとやると混乱するぞということになり、予約制にすることになりました。このティラノサウルスレースは、今後何年かのGARDENのキラーコンテンツになりそうな確信があります。また一緒にクネクネと走りましょう。

 参加者のひとりと、こんな会話を交わしました。
「こうやってまた、ビバラを感じられて嬉しいです。私は今回はチケットを買いませんでした。今回、マスクフリーでの開催ということで、自分は呼吸器系の病気を持っているので、不安だなと思ってアリーナに入るのはやめたんです。だけど成功を願っていますし、GARDENには毎日来るんじゃないかなって思ってます。頑張って成功させて次に繋げてくださいね」
 胸が詰まる想いでした。しかし、この方と話している中での後悔はありませんでした。今回のビバラは当初から自由や撤廃を掲げて告知もしてきたので、そのことに不安を感じてきた方も、それを理由に躊躇された方もいらっしゃるかと思います。しかしそれは今に始まったことではなく、コロナ禍前にもあったと思いますし、コロナ禍での開催に足を運んでくれた方も、地元では何も告げずにひっそりと来られた方も多かったと聞いています。今回も様々な選択肢が我々にはありましたが、結果的に以前と同じフェスの楽しみ方を実践しようと固く決めました。それを求めている人の顔は確かに見えているけど、それをはっきりと実践するフェスがあるかどうかはわからなかったことを含め、前を向いてコロナと共存する時代のフェスの在り方を追求しようと決めました。まずは今回それをやり切った上で、その先を見てみたいと思ったからです。

 いよいよ5月3日、初日です。
 ここからは長いことかけて準備してきたことや願い続けてきた数々の施策を、出演アーティストと参加者とシェアする時間になりました。
 すべての参加者を尊重し、マスクをする方もしない方も行動制限がないこと。そのために「自分がいてみんながいる」でのはなく、「みんながいて自分がいる」という気持ちで自由に楽しんで欲しいということ。ビバラは「あなた」に楽しんでもらいたいのではなく「あなた方」に楽しんで欲しいんだということを口酸っぱく伝えさせていただきました。その気持ちは5日間通して共感いただいた実感を持っています。
 様々な方々が、様々な想いと生き方を抱えてやってくるということを、これだけちゃんと受け止めようと思って開催したことはなかったかもしれません。ただ、それはコロナ禍でいきなり生まれた感情ではなく、そもそもフェスティバルという「祝祭」の本質にあるものだと思っています。それをいつもとは違ってきちんと前面に掲げて開催したことによって、マナーを持って自由に、歓喜の時間を過ごしていただいた方が多かったと思っています。心から感謝します。

 今回は出演者も様々な想いを抱えて出演してくれました。アニバーサリーや活動のターニングポイントを迎えているアーティストも多く、それはエレファントカシマシのような圧巻の35周年バンドもいれば、KANA-BOONやSHISHAMO やKEYTALKやTHE ORAL CIGARETTESやキュウソネコカミなどのように、シーンの中でビバラと半ば同期なバンドもたくさん出演してくれました。我々が開催を始めた2014年辺りは、フェスシーンの中から新しい地殻変動が確実に起きた時期で、そういうことを思い出させるいい機会でもあったと思います。
 哀しい出来事に襲われたバンドやアーティストも、それを乗り越えようとする中で出演してくれました。心からあたたかく迎え、そして共に最高の1日を過ごし、前へ進むささやかな一歩にして欲しいと願いながら過ごしましたが、それは多くの参加者も同じ気持ちだったことがステージに充分に伝わっていました。
 BiSHのようにピリオドが近づいているアーティストも出てくれたし、このフェスを初回、いや、やると決めた瞬間から誰よりも強くエールを送ってくれ、惜しみない協力をくれたthe telephonesから長島涼平が脱退する、そのラストステージをビバラにしたいという連絡をもらった時は、どんな器として彼らをお迎えすべきか、考えても答えが出ない問答をずっと繰り返しました。

 アーティストごとに様々な想いとストーリーを抱えてやってきてくれたことも含め、10回目のビバラは本当にエモーショナルな日々を描き響かせました。その想いを一番共有し共鳴してくれたのは、参加者の表情であり声だったと思います。参加者の皆さんも様々な想いを抱えてやってきてくれたことは、出演者にも我々主催側にももの凄く伝わっていました。初日より2日目、3日目と、開催が進むごとに雰囲気がどんどん解放的になっていったこと。そして多くの方々が場所取りをせずにビバラ全体の空間と時間を楽しんでくれたこと。今回は多くのアーティストからビバラの10回目を祝福するメッセージをステージ上からいただきました。その祝福の空気がさらに参加者のあたたかさや優しさを広げてくれたのも大きかったと思います。つまり、アーティストと参加者が一体となって、時代的にも社会的にも我々のフェス的にも特別な開催であった今回のビバラを最高なものにしてくださった。改めて感謝いたします。

 終わってみて、まだ今回の開催が何だったのかは総括できていません。それほどまでに特別だったこともありますし、果たして我々の今回の開催が、これからのフェスやライヴシーンにもたらすものがあったのかどうかもわかりません。我々は敢えて制限ルールをすべて撤廃しました。それに多くのアーティストも参加者も意義を感じて過ごしてくれました。それは「あの感じが戻ってきた」というものではなく、「新しいライヴやフェスシーンへのスタートのようなものだった」と多くの方から言われましたし、我々もそんな気がしています。しかし、もしかしたらそうではなくビバラというクセの強いフェスの中で起こった極端な出来事に過ぎないかもしれません。それは今後の様々なエンターテイメントやライヴが何がしかの形で表してくれる気もしていますし、僕はそれを待ちたいと思っています。

 これからビバラは新しい局面を迎えることになります。来年は5月3日から6日までの4日間開催です。新しいビバラの風を皆さんにどう届けるのか、これから考えていくと思っていますが、重ね重ね今年、これからのためにも最高の開催をすることができたことを心から感謝します。
 フェスに永遠なんてないですが、それでも永遠にこのフェスがあったらいいなという願望を持つことができたのは、皆さんのおかげです。
 ありがとうございました。

鹿野 淳
(VIVA LA ROCKプロデューサー)